所得税には「雑損控除」という所得控除があり、災害・盗難・横領の被害について救済されますが、振り込め詐欺などの詐欺被害は対象外と考えられています。
説明のポイント
- 採決事例では、振り込め詐欺は雑損控除の対象外と審判されている
「振り込め詐欺」とは?
そもそも振り込め詐欺とは何でしょうか? 一般的に「振り込め詐欺」とは、次のようなものを指す犯罪をいいます。
- 公的機関や家族を装って心理的圧迫を加え、現金を至急振り込むように要求する「オレオレ詐欺」
- 架空の請求を強硬に主張して振り込みを要求する「架空請求詐欺」
- 還付金が受け取れる方法を案内すると言い、嘘の操作をさせて振り込みさせる「還付金詐欺」
しかし、これらの振り込め詐欺の損害は、災害を被った場合と異なり、所得税の雑損控除の対象にはならないとされています。
所得税とは?
まず所得税のしくみから把握します。
「所得税」とは、個人の1年間の「所得」(もうけ)に対して税金を払う力を見いだし、税金を負担させる税制です。
つまり、稼いだお金があるのだから、いくらかは国に納められるでしょう? という感じで負担が決まります。
ただし、この所得(もうけ)については、いくつかの控除が認められています。控除とは、所得を減らして税金をかからなくする、負担軽減をいいます。
引用:もっと知りたい税のこと(財務省)
例えば、国民年金保険料を支払えば、「社会保険料控除」として所得から控除され、税金も減ります。
「所得控除」は、「生きていく上での必要経費」として所得から減らすもの、と考えればわかりやすいです。
雑損控除とは?
このような「所得控除」のひとつに、「雑損控除」があります。
ほとんどの方にはあまり縁のない制度です。なぜなら、この控除の対象となるのは、災害などの被害に遭った場合だからです。つまり、使えなくて幸運である制度であることに、間違いはありません。
具体的な被害の対象は
雑損控除が認めている、具体的な被害の対象は、次の場合に限られます。
(1) 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
(2) 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
(3) 害虫などの生物による異常な災害
(4) 盗難
(5) 横領
しかし、この制度では、「恐喝」「詐欺」は雑損控除の対象外とされています。
災害や盗難は、自分の予期すること無く受ける被害であるのに比べて、恐喝や詐欺は、自分の判断する余地があったうえで受けた被害という考え方になっているからです。
「詐欺」が対象外なので、これと同様の「振り込め詐欺」も雑損控除の対象外になります。
本当に雑損控除で、救済されないのか
振り込め詐欺被害は本当に雑損控除の対象外なのか、救済される余地はないのか? ということで、審判された採決事例があります。
この裁決においては、雑損控除の対象外であり、所得税としての救済措置は無いという判断が下されました。
参考:(平成23年5月23日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
ちなみに「採決」とは、国税不服審判所で審理された事案です。
国税不服審判所は裁判所とは違いますが、税務署の判断に不服がある際に、納税者が審理を要求できるところです。この採決の結果に不満がある場合には、納税者は裁判所に訴えることができます。
つまり、裁判になる一歩前として、国税不服審判所で審判された事案は、税務の参考事例とされています。
結局、税制改正による救済しかないのでは?
現行の雑損控除の枠内では、振り込め詐欺被害を救済するのは難しいと考えられます。
雑損控除を振り込め詐欺に対応させるのであれば、税制改正で制度を変更するしかないでしょう。
ここで難しいのが、「自己責任」という考え方です。世間的な意見では、「振り込め詐欺にだまされるのは、自分が悪い」という見解もあるようです。
しかし、筆者が調べてみたところ、いくつかのテレビドキュメンタリーや書籍に目を通すうちに、振り込め詐欺グループは恐ろしい犯罪集団ではないか、と認識を改めました。
もはや「自分が悪い」という次元を超越した、知的かつ巧妙な犯罪のように思われます。いつまで経っても詐欺被害が無くならないのは、その証左でしょう。
「雑損控除」は25年度実績で6,814件の適用という、ほとんどの方には縁の無い制度です。
すべての詐欺被害に対応させることはできなくても、意思能力の欠如など、特定の条件を満たした場合であれば、「盗難」や「横領」に準じて雑損控除の対象にするといった、国側の努力があってもよいと考えます。
まとめ
所得税の確定申告時に使える雑損控除ですが、その対象は「災害」「盗難」「横領」に限られています。採決事例を見る限りでは、「振り込め詐欺」にも対応するのは見込みが薄そうです。
ちょっとした話では、雑損控除の対象には、シロアリの被害も対象に含まれています。確定申告時に適用することで、税金の減免が受けられますので、昨年に何かしらの不幸に遭われた方は、その対象になるかどうかを一度確認してください。