酒税の世界 税率改正案でもビールはやはり「高級酒」のまま

並んだビール瓶

平成28年12月に発表された平成29年度税制改正大綱。その目玉のひとつが酒税改革であり、ビール等の税率の見直しでした。ビールに課される税率がどう変わるのかを確認します。

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ビールをめぐる課税の問題

ビールはもともと舶来品であり、飲める人が限定されていたお酒でした。このため、ビールは「高級酒」として扱われていました。

その後、ビールは多くの人が口にする大衆的なお酒になりました。また、酒税の多くを占める重要な酒類としても位置付けられ、税率の見直しからは置き去りになっていました。

酒税の課税実績

▲国税庁「酒のしおり(平成28年3月)」より

「高級酒」扱いのまま、高い税率であり続けるビールについて、酒造メーカーは発泡酒や「第三のビール」(新ジャンル)といった「節税酒」を開発しました。

これらは、価格の安さもあって消費者からも一定の支持を得るにいたりました。しかし、国にとってみれば、税収の減少要因につながったわけです。

ビールにおける酒税の問題については、以前の記事で紹介しました。

参考酒税の世界 ビールは「高級酒」 価格の40%が税金!(当サイト、2016年7月15日)

ビールは「高級酒」?

お酒を飲む場合に、最初にビールを注文する人も多いでしょう。ビールは広く飲まれているお酒です。

これを、平成のいまにおいてビールを「高級酒」といわれても、すんなり受け入れることは難しいでしょう。

ビールが「高級酒」と感じられるのは、アルコール分1度(%)を、1リットルあたりで見た場合です。

以下のグラフは、各酒類における現行の酒税の税率を、アルコール分1度1リットルで表示したものです。

アルコール分1度あたりの酒税

発泡酒の税制を考える会「酒税に関する要望書」(平成28年8月)

ビールのアルコール分は標準で5度程度ですが、これを1度あたりで見てみると、ビールだけが飛び抜けて税率の高いことがわかります。

酒税はどう変わるのか

今回発表された平成29年度税制改正大綱の内容をふまえて、現行の酒税と、改正案の酒税を、アルコール分1度あたりで確認しましょう。

現行の酒税

現行の酒税

改正案(平成38年)

酒税の税率改正案(平成38年)

※区分統一後の「ビール・発泡酒・新ジャンル」は、「ビール」の欄に表示した。

「大衆酒」といえるレベルか?

まず、ビール、発泡酒、第三のビール(新ジャンル)の区分がなくなり、発泡性酒類の課税に統一されます。そして、発泡性酒類の税率も引き下げられて、1度1リットルあたりで「31円」になります。

その他、缶チューハイと果実酒(ワイン)の税率は上昇し、清酒(日本酒)の税率は引き下げになります。

今回の酒税改革は「厳しい財政状況や財政物資として酒類の位置付け等を踏まえ、税収中立で行う」とされています。苦しい台所事情でやりくりした結果の、ビールの税率引き下げでしょう。

しかし、他の酒類と比較してみると、ビールが「大衆酒」にふさわしい税率になったとは、まだいえない印象です。

見直しが図られる可能性も

今回の酒税改革では、3年ごとに税率を段階的に調整して、その影響を緩和しています。

平成29年度税制改正の酒税の税率構造の見直し

参考平成29年度税制改正 個人向けの改正情報【早わかり】(当サイト、2016年12月16日)の、項目4.「酒税の税率構造・定義の見直し」を参照。

この段階的な税率調整については、保留の文言が付いています。

税率の段階的な見直しについては、その都度、経済状況を踏まえ、酒税の負担の変動が家計に与える影響等を勘案して検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする

(「平成29年度税制改正大綱」P.95より)

つまり、この改正案は100%確定ではなく、状況次第で税率の上げ下げや、時期の変更の可能性がありえるということです。

発泡酒や第三のビール(新ジャンル)を愛飲していた消費者層の反応を観察しよう、という意図がうかがえます。

まとめ

ビールへの税率引き下げについては、「大衆酒」というレベルにはまだ遠い印象があります。

また、ビールの税率引下げの余波で、これまで発泡酒や第三のビール(新ジャンル)、缶チューハイを愛飲してきた層には、苦味の増すような改正になりました。

逆に、地ビールメーカーなど、ビール専業で取り組んできた酒造メーカーには恩恵です。税率の引き下げで価格競争力が増します。

今回の酒税改革では、ビールやワインに用いる副原料の製法の緩和、酒蔵ツーリズムの推進や、焼酎特区(小規模でも焼酎の製造が認められる)の創設も挙げられています。

美味しい、個性的なお酒が誕生し、日本の酒文化が一層豊かになることを期待します。

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