入金=売上とは限らない 事業所得で注意すべき帳簿のルール

クラウド会計の提案するままに、通帳への入金を「売上」として処理している事例があるようです。しかし、これだと簿記のルールに適合していない可能性があります。

説明のポイント

  • 入金=売上とは限らない
  • 仕事が完了した時点で「売上」として考える。入金待ちの場合は「売掛金」とする
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簿記のルールでは「入金=売上」とは限らない

クラウド会計ソフトを利用するメリットは、通帳からの自動記帳の機能だけではありません。人工知能により、自動的に勘定科目を提案する機能も備えています。

しかし、この提案機能にも限界はあります。簿記のルールを知らないと、落とし穴にハマる可能性もあります。私が気になっているのは、「入金=売上」という仕訳を提案する可能性です。

下の画像のように、クラウド会計ソフトは、ある顧客からの通帳への入金を「売上高」と判断したケースが要注意です。

入金=売上高の提案

この意味がよくわからずに、クラウド会計ソフトの言いなりで処理している方も多そうなので、注意喚起します。

簿記のルール

簿記のルールでは、「入金=売上」とは限りません。小難しいことは省きますが、売上を計上するタイミングとは、仕事やサービスが終わった場合など、売上が確定したときです。

この売上のタイミングは、商売によって異なります。

例1 飲食店

飲食店の場合、食事を出してお客様が代金を支払えば「代金の受け取ったとき=売上」です。これはサービスの提供と代金の回収の時点が一致しているからです。

例2 フリーライター

書き上げた原稿を納品してOKが出たら、その時点で売上です。入稿と引き替えに原稿料をもらえない場合は、先に売上として処理し、入金を待ちます。

例3 アフィリエイター

ブログに広告やアフィリエイトを掲載している場合、その広告の対象期間が完了したり、アフィリエイトの金額が確定した時点で売上とします。

つまり、販売やサービスの提供のあとに入金のある商売は、その入金待ちの状態を「売掛金」や「未収金」として処理しなければなりません。

現金を受け取った時点で売上にする「現金主義」を使いたい場合は、青色申告の10万円控除を適用し、税務署の承認を受けた場合に限り適用できます。
参考[手続名]現金主義による所得計算の特例を受けるための手続(国税庁)
簿記のルールとして、売上のタイミングの詳しい意味を知りたい場合は、「実現主義」で検索してください。なお、重要性の低い処理については、売上=入金という処理でも構わないと考えます。

ありがちな事例

ありがちな事例を紹介しておきます。

事例(1)

ブログに広告を表示しており、当月の収益は翌月に振り込まれるケースです。この場合、12月の収益は、1月に入金されますが、「12月の売上」として計上します。

事例(2)

年末進行で12月に納品した原稿。入金は翌年2月で、その入金に関する支払調書も2月に送られてきたケースです。これらの入金や支払調書は、売上のタイミングとは何の関係もありませんし、支払調書が翌年分で書いてあっても、それをうのみにはできません。

あくまで仕事の完了した時点(原則は契約書のとおりで、契約書がなければ納品時点)で売上を考えますので、売上は12月になります。

クラウド会計にも限界はある

先ほど紹介した、クラウド会計ソフトの仕訳提案の機能では、入金時の処理について「売上」という仕訳提案をしてきました。

入金=売上高の提案

しかし、入金と売上の時点が一致しない商売では、この勘定科目は「売掛金」にします。クラウド会計ソフトの提案をそのまま鵜呑みにしてはいけません。

仕訳の流れ

仕訳の流れは、次のとおりです。

仕訳(1) 売上が確定したとき

[借方] (売掛金)324,000 / [貸方] (売上高)324,000

仕訳(2) その後入金があったとき

[借方] (普通預金)324,000 / [貸方] (売掛金)324,000

※入金があった時点で、「売掛金」はなくなります。

クラウド会計ソフトを使うならば、

  • 売上が確定した時点で 仕訳(1)を入力する
  • 入金があると、クラウド会計ソフトが自動で仕訳を提案してくる。その仕訳を(2)のように「売掛金」として選択する

という処理をします。

主要なクラウド会計ソフトは学習機能を備えており、入金の仕訳提案を「売掛金」だと教えれば、その顧客に対しての入金判断は、今後も「売掛金」であると理解します。

請求書ソフトを使えば問題は軽減できそう

これらの問題は、自動で仕訳が取り込まれるクラウド会計ソフトにおいて、とくに起こりやすい問題と考えます。

簿記の知識がないと、未入金のものを「売上にする」という意味が理解しづらい、ということです。そして、通帳との連携機能を使ったら、なんか入金が「売上高」と表示されたので、そのまま売上になったっぽいし、よっしゃオッケー!という感覚になりやすいでしょう。

請求書ソフトを使うという手もある

この問題点は、クラウド会計ソフトに連携する「請求書ソフト」を使えば、ある程度は解消できそうです。

まず請求書ソフトで処理し、その請求書を発行した時点をもって売上とし、そのデータがクラウド会計ソフトに送信されます。あとは、クラウド会計でそのまま仕訳を入力すればよいでしょう。

請求書を発行

(連携)↓ クラウド会計で仕訳を自動提案

[借方] (売掛金)324,000 / [貸方] (売上高)324,000

この方法のメリットは、手入力で売上を記帳する必要が無いことです。

また、請求書ソフトを使うことで、入金=売上という処理を防ぐことができます。請求書を送らない得意先であっても、あえて請求書ソフトに売上を入力して、ルールを統一するという手もあります。

「MFクラウド確定申告」を使っているなら、連携しやすい「MFクラウド請求書」を利用するのもいいでしょう。

まとめ

事業所得がある場合、所得税の確定申告では正しい簿記のルールが求められます。

このルールをよく知らないままに、クラウド会計ソフトのいいなりのままに、簿記のルールを無視してしまう事例も見受けられるので注意喚起しました。

正しい処理になっているか、もう一度仕訳を確認してください。

もし入金ベースで処理してしまった場合も、ぜんぶ帳簿を変更する必要はなく、一部の調整ですむかもしれません。次の記事をご覧ください。

「入金=売上」で帳簿をつけている場合に、期末時点でこれを正しい金額に調整するための方法をお伝えします...

また、この記事では請求書ソフトの活用を提案しましたが、請求書ソフトもやはり注意すべき点があります。注意点は、次の記事で述べています。

前回の記事で、簿記のルールとして、入金と売上のタイミングは同じとは限らないことを説明しました...

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