「未来投資戦略2017」に掲げられた財務・会計領域等のクラウド利用率の目標値について考えます。第3回目の記事です。
説明のポイント
- 若い経営者でも、クラウド会計の利用率が劇的に高いわけではない
- 企業規模が大きいほど、クラウド会計は利用されている
- 法人化の予備群である個人事業主の利用率は、一般の中小企業の利用率よりも低い
これまでの記事のおさらい
「未来投資戦略2017」の目標値では、財務・会計領域等のクラウド利用率を、2017年時点の4倍の「4割程度を目指す」ということでした。
第1回目は、その2017年時点の利用率における「約1割」の根拠を探すところから始めました。
また、前回の第2回目は、クラウド会計の定義と、会計ソフトの利用状況は会計事務所の影響力が強いこと、そしてクラウド会計の利用率が高まる経路を説明しました。
今回の記事も、クラウド会計の利用率について引き続き考えていきます。
4.若い経営者でも、クラウド会計の利用率が劇的に高いわけではない
「若手の経営者であれば、クラウド会計をどんどん使って効率的」というイメージがあるかもしれません。
しかし、データを見る限り、そのような状況はあくまで一握りといえます。
第1回目、第2回目でも引用したデータに、クラウド会計の利用率を示したものがありましたが、このデータを「代表者の年齢別」に分けたもの載っています。
引用:中小企業庁委託調査「「決済事務の事務量等に関する実態調査」最終集計報告書」(2016年12月)問29
この調査結果を見ると、確かに40歳未満の若手経営者の場合はクラウド会計の利用率は、13.6%~14.6%であり、平均の9.0%よりも高めです。しかし、劇的に高いかというとそうでもない、というところでしょう。
30歳以上40歳未満の経営者では、パッケージソフトの利用率は60.6%で、これは全体の平均とほぼ同じです。
40歳未満の若手経営者の場合、クラウド会計の利用率はやや高いものの、劇的に高いとはいえない状況といえます。また、ライバルとなるパッケージソフト型ソフトも、同じようによく使われていることがわかります。
5.企業規模が大きいほど、クラウド会計は利用されている
企業規模が小さければ、柔軟な対応も可能でクラウド会計に乗り換えやすいし、起業したての企業もクラウド会計を利用している可能性が高い……というのは思い込みかもしれません。
意外でしょうが、クラウド会計の利用率が高いのは、従業員数が多い企業という調査結果が出ています。
以下の表のとおり、51人以上の従業員数の企業では、全体の平均よりも高めの利用率となっています。
引用:中小企業庁委託調査「「決済事務の事務量等に関する実態調査」最終集計報告書」(2016年12月)問29
規模の大きい企業が積極的にクラウド会計を利用しているというよりも、小規模企業はIT化されていないことが多い、といったほうが適切かもしれません。
つまり、小規模企業では、記帳を紙でまとめているか、会計事務所に丸投げしている割合が高く、伝票や集計も紙ベースになっている、ということです。この集計結果は、法人が95%を占めていますので、個人事業主の話ではありません。
ちなみに、企業規模が大きいほど利用率も高いという結果を裏付ける調査として、資本金3,000万円以上かつ総従業員50人以上の企業又は団体を調査した「情報処理実態調査」では、平成28年度における「財務・会計」のクラウド利用率は、29.1%となっていました。
規模の大きい企業を中心に、クラウド会計の利用率が高まっている様子がわかります。
引用:平成29年情報処理実態調査 報告書(経済産業省)
6.法人への参入予備群となる個人事業主の利用率は低い
事業が成長すれば、個人事業は法人化にいたることもあるでしょう。このことから、個人事業主は、法人の一歩手前の段階にある参入予備群とも考えられます。
では、そんな個人事業主で、クラウド会計の利用率はどうなっているのかを調べてみると、上記5.で示した「企業規模が大きいほど利用率は高い」という考え方がそのまま当てはまるようです。
個人事業主向けに調査が行われているMM総研「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2019年3月末)」の調査を見ると、「クラウド会計ソフトの利用率は18.5%」とされています。
ただし、この「利用率」とは、会計ソフトを使っている人に占める割合となっています。
つまり、会計ソフトを使っていない人は含まれていないので、その利用率は「会計ソフトのシェア」を意味していることに注意が必要です。
そこで、MM総研のデータから、回答者数全体のうちクラウド会計を利用していると答えた割合を算定し直しました。
こうしてみると、毎年クラウド会計の利用率は高まっている様子がわかりますが、その利用率は2019年3月において6.0%となっています。
なお、MM総研の調査は前回の記事でお伝えしたとおり、ブラウザだけで利用できるクラウド会計ソフト(狭義の「クラウド会計」)が対象とされています。
この調査は、インターネットで実施されたものであり、回答者は個人事業主です。インターネットでアンケート調査にわざわざ回答できる個人ですから、まさか「パソコンが使えない」ということはないでしょう。
そう考えると、この利用率の結果は、かなり微妙です。紙ベースだった人がクラウド会計を利用し始めたり、パッケージソフトからの乗り換えが雪崩を打っているかというと、それほどでもないことがうかがえます。
それに、そもそも会計ソフトを使っていない人が圧倒的に多い、という実態も気になるところです。
弥生会計は、個人事業主向けのクラウド会計ソフト「やよいの白色申告 オンライン」を利用料不要(つまり無料)で提供していますが、こうした状況を受けてのマーケティング戦略といえそうです。
個人事業主と会計ソフトの利用状況については、青色10万控除(Excelなどの単式簿記でも可)と、65万控除(法人と同様に複式簿記が必須)をからめた分析も必要かもしれません。複式簿記でなければ、無理に会計ソフトをつかう必要はないからです。
まとめ
「未来投資戦略2017」の目標値である、クラウド会計の利用率4割程度について考える記事の第3回目でした。
今回お伝えした内容は、次のとおりです。
- 若い経営者でも、クラウド会計の利用率が劇的に高いわけではない
- 企業規模が大きいほど、クラウド会計は利用されている
- 法人化の予備群である個人事業主の利用率は、一般の中小企業の利用率よりも低い
残り1回の掲載を予定しています。