財務・会計領域等のクラウド利用率は4割になるか?【2】

前回の記事に引き続き、「未来投資戦略2017」に掲げられた財務・会計領域等のクラウド利用率の目標値について考えます。

説明のポイント

  • クラウド会計の定義は、広義と狭義がある
  • 会計ソフト市場は、会計事務所の影響力が強い
  • クラウド会計の利用率が高まるのは、パッケージソフトからの乗り換えなどが要因
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前回の記事のおさらい

「未来投資戦略2017」の目標値では、財務・会計領域等のクラウド利用率を、2017年時点の4倍の「4割程度を目指す」ということでした。

そして前回の記事では、その2017年時点の利用率における「約1割」の根拠を探すところから始めました。

政府方針として、中小企業におけるバックオフィス業務の効率化が掲げられています。クラウドサービスを活用...

正直、誰もあまり関心がなさそうな話をしている気もしますが(笑)、ネットの個人ブログだから書ける記事でしょう。

今回からの記事は、「未来投資戦略2017」に掲げられた目標値である4割程度は達成できそうか? という点を考えます。

結論からいうと、「かなり難しいのでは……」という印象を持っています。その考え方のベースとなる資料を、さまざまな視点からながめてみたいと思います。

1.クラウド会計の定義は何か?

またもや前提の話になりますが、「クラウド会計」については、その用語の範囲をどこまで含めるかという点について、微妙なところがあります。

なぜなら、各種の会計ソフトメーカーが提供しているソフトには、「クラウド」の名前のつくソフトも多くあるものの、そのタイプはさまざまだからです。

例えば、クライアントソフトをダウンロードしてインストールするが、データはクラウドに保管されているタイプがあります。(「広義」のクラウド会計ソフト

一方で、ブラウザだけで利用でき、インストールは一切不要なクラウド会計ソフトもあります。(「狭義」のクラウド会計ソフト

ちなみに当ブログでは、狭義の基準を「クラウド会計ソフト」と考えています。(電子証明書によるデータ取得ソフトが別途必要な場合もありますが、例外とします)

この考え方は、MM総研によるクラウド会計の利用率調査でも、同じ基準となっています。

前回の記事で紹介した中小企業庁の委託調査におけるクラウド会計の利用率(9.0%)は、「クラウド」の名前のつくすべてのソフト、つまり「広義」のものとして回答されている印象もあります。

それに、ブラウザだけで利用できる「狭義」の会計ソフトで4割程度目標とすれば、「広義」のクラウド会計を提供している既存の会計ソフトメーカーが黙ってはいないでしょう。

2.会計ソフト市場は、会計事務所の影響力が強い

会計ソフト市場は、会計事務所の影響力が非常に強いとされています。

これを具体的にいえば、「中小企業が利用する会計ソフトは、会計事務所が指定することも多い」ということです。

中小企業側で利用するソフトの強い希望がなければ、当然ですが、会計事務所の指定による会計ソフトを利用することになるでしょう。これはあながち、悪いこととはいえません。

会計事務所は、指定の会計ソフトの指導や操作に慣れていますので、相互においてメリットがあります。

会計事務所が会計ソフトに強い影響力をもっていることについては、その状況を裏付けるデータがあります。

中小企業庁委託調査「平成26年度 中小企業における会計の実態調査事業報告書」(2015年3月、P23)によれば、「顧問先の会計事務所が推奨する会計ソフト」を利用していると回答した割合は47.4%となっています。

つまり、およそ半数の中小企業が、会計事務所の指定したソフトを使っているということです。会計事務所の強い影響力がうかがえます。

引用:中小企業庁委託調査「平成26年度 中小企業における会計の実態調査事業報告書」(2015年3月、P23)

このことは、会計事務所がクラウド会計の利用に積極的でなければ、同時にクラウド会計の利用率も増えづらいといえるでしょう。

3.クラウド会計の利用率が高まるということの意味

中小企業における会計ソフトについて、パッケージ型の利用率は6割と集計されています。この数値の根拠となるデータは、前回の記事でもご紹介しています。

引用:中小企業庁委託調査「「決済事務の事務量等に関する実態調査」最終集計報告書」(2016年12月)問29

大半の中小企業は、なんらかの会計ソフトを使っているわけです。このことから、クラウド会計の利用率が高まるということは、

  • 現行のパッケージ型を利用している事業者が、クラウド会計に乗り換える
  • 会計事務所に「丸投げ」になっている帳簿付けを、自社での記帳に変えていく
  • 紙やExcelだけで帳簿をつけている事業者が廃業し、新規開業者はクラウド会計を利用する(いわゆる自然な新陳代謝)

といったパターンが想定されます。

上記2.で示したとおり、パッケージ型のシェアは会計事務所の意向もあるでしょうから、パッケージ型からクラウド会計へ乗り換えることは、そう簡単ではありません。

顧問である会計事務所がクラウド会計を利用しないことから、やむなく会計事務所の乗り換えもともなう場合もあり、これらの「乗り換え」の労力コストは非常に高いです。

また、自社で帳簿付けを行っていない「丸投げ」の割合も2割程度あると推測されます。下記に示すとおり「記帳代行」の割合は24.7%という調査結果があります。

引用:中小企業庁委託調査「平成26年度 中小企業における会計の実態調査事業報告書」(2015年3月、P21)

クラウド会計は、通帳をもとにした勘定科目の入力がベースになるので、自社で帳簿付けがしやすくなるしくみと考えられます。

しかし、既存の「記帳代行」の体制を、クラウド会計に切り替えて自社で記帳することは、大きなエネルギーを要するといえます。

パッケージソフトからの乗り換えや、丸投げが減って、クラウド会計の利用率が高まっていくというのが流れなのでしょうが、そう簡単ではないといえます。

まとめ

「未来投資戦略2017」の目標値である、クラウド会計の利用率4割程度について考える記事の第2回目でした。

今回お伝えした内容は、次のとおりです。

  • クラウド会計の定義は、広義と狭義がある
  • 会計ソフト市場は、会計事務所の影響力が強い
  • クラウド会計の利用率が高まるのは、パッケージソフトからの乗り換えなどが要因

この記事の続きは、以下のリンクでご覧ください。

「未来投資戦略2017」に掲げられた財務・会計領域等のクラウド利用率の目標値について考えます。第3回...

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