政府方針として、中小企業におけるバックオフィス業務の効率化が掲げられています。クラウドサービスを活用するという2022年の数値目標について、2019年の時点で考えてみる記事です。
説明のポイント
- 2017年の政府方針に、財務・会計領域等のクラウド利用率を5年後に40%にするという目標が設定された
- その根拠となった数値(2017年の利用率10%)の資料は何か
「未来投資戦略2017」におけるクラウド利用率の目標
クラウド会計を熱心に利用している人であれば、すでにご存じでしょう。
中小企業のバックオフィス業務については、生産性向上と効率化の観点から、クラウド利用率を高める方針が政府によって掲げられています。
その政府方針は、2017年に発表された「未来投資戦略2017」で掲げられました。その該当部分を引用してみましょう。
今後5年間(2022年6月まで)に、IT化に対応しながらクラウドサービス等を活用してバックオフィス業務(財務・会計領域等)を効率化する中小企業等の割合を現状の4倍程度とし、4割程度とすることを目指す。(P.60)
経済産業省等において、産業界と連携し、中小企業等におけるバックオフィス業務の効率化等に資するIT・クラウド化の状況について、現在実施している取組を踏まえ、より適切な目標値等について検討する(P.63)
ここでいう「財務・会計領域等」が何を指すのかは、微妙にあやふやな点もあります。基本的には、クラウド会計ソフトと連携する各種ソフトを指すものと考えてよいでしょう。
そして、その利用率については「5年間で40%程度を目指す!」という、なんとも意欲的な目標が設定されていました。
この発表があった当時に書いたブログを読み返すと、私自身もやや驚きを持って書いたことを思い出します。
2017年時点で利用率「1割」の根拠は何か?
今回の記事は、2017年時点における利用率が「1割」という根拠はなにか? を調べた結果をお伝えします。
なぜこのようなことを調べたかというと、「未来投資戦略2017」には、5年後に利用率を4倍程度の4割にすると書かれています。ところが、その出発点である2017年時点の利用率が「1割」である出典が、はっきりしないためです。
「未来投資戦略2017」ではKPI(達成度の指標)が設定されていますので、その期限である2022年には達成度も検証されることでしょう。
利用率の根拠がわからないと、その達成度もわからないことになります。
ということで、細かい点にこだわる筆者としては、すっきりさせるためにも根拠資料を自力で調べておくことにしました。
根拠は何か?
結論からいうと、その根拠資料は「「決済事務の事務量等に関する実態調査」最終集計報告書」(2016年12月)の問29ではないか……? と筆者は考えています。
次に引用するとおり、「会計クラウドサービス」の利用率は「9.0%」となっています。
この回答は複数回答が可能ですが、パッケージ+クラウド+統合システムを合計しても、その割合は74.9%です。
これら以外の25%の会社は、表計算ソフト・手書き・会計事務所に丸投げ、のいずれかになるでしょう。
なぜこの資料が根拠と思われるのか
「未来投資戦略2017」が発表されたのは2017年6月ですので、中小企業庁が実施した調査としては、この調査資料(2016年12月)が時期的に近いことが理由です。
また、クラウドサービスの利用率も9.0%となっており、「未来投資戦略2017」の「約1割」とも一致します。
その他の資料はあるか?
これ以外にも中小企業庁が実施した調査としては、「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」(2015年12月)があり、クラウド会計の利用率も調査結果に含まれています。
ただし時期的には2015年12月と少し古く、クラウド会計利用率も「5.2%」という結果でした。
利用率は10%ではないので、この資料が根拠とはいえないでしょう。(ちなみにこの結果は、2016年版「中小企業白書」でも見られます)
ほかにも、経済産業省が実施する「情報処理実態調査」という調査がありますが、こちらは中小企業だけを対象とした調査ではありませんし、平成28年度の「財務・会計」の利用率も29.1%となっています。
引用:平成29年情報処理実態調査 報告書(経済産業省)
調査対象はどうなっている?
「決済事務の事務量等に関する実態調査」最終集計報告書」(2016年12月)における調査ですが、次の内容となっています。
- 調査対象は中小企業基本法に定める中小企業
- 調査対象数は3万件で回答件数は8600件で、そこから中小企業でないものを除外
- 法人の割合は97.5%(個人事業主は2.5%)
まとめ
この記事では、政府の掲げる「未来投資戦略2017」で設定されたクラウド会計の利用率拡大について、その根拠となる数値の資料を確認しました。
出発点がしっかりしないと、終着点もよくわからないことになりそうなので、まずはその前提としての資料探しから始めました。
なお、これ以外に公表されていない調査や、筆者の知らない調査が他にもあるかもしれませんので、あくまで「クラウド会計についていろいろ調べた人」による推測によります。
次回の記事では、2022年に「4割」は達成できそうか? という点を考えます。