源泉徴収票の添付不要で生じる影響の検討【2】 支払調書の添付もなくなる?

平成31年度税制改正により、2019年4月以後に提出する確定申告書について、給与所得の源泉徴収票が添付不要になりました。この改正で生じる影響を考えます。2回目は、個人事業主の確定申告で活用されている支払調書への影響についてです。

説明のポイント

  • 源泉徴収票と支払調書が同一視されていることの誤解から、個人事業主は支払調書を確定申告書に添付している可能性がある(本当は添付しなくていい)
  • 「支払調書は収集する必要性のあるもの」という根強い考え方があるため、源泉徴収票が添付不要となっても、「支払調書の収集」に及ぼす影響は少ない
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前回のおさらい

確定申告書に添付義務がある給与所得の源泉徴収票などの書類について、2019年4月から添付不要とされました。これは平成31年度の税制改正による措置です。

国税庁ホームページ「国税関係手続が簡素化されました」において、すでに周知がはじまっています。一般の納税者が気にするのは、2020年の1月からのことでしょう。

前回の記事では、源泉徴収票が添付不要となった背景と、添付不要が誤解される可能性について考えました。

平成31年度税制改正により、2019年4月以後に提出する確定申告書について、給与所得の源泉徴収票が添...

支払調書にまつわる誤解

今回は、確定申告と支払調書への影響について考えます。

源泉徴収票と支払調書(ここでいうのは報酬等の支払調書)は、「法定調書」という大きいくくりの枠内では同じ書類の区分ですが、その中身はまったく別のものです。

引用平成30年 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引(国税庁)

そして、個人事業主でありがちなのが「支払調書は、確定申告に必要!」という思い込みです。

なぜこういう誤解が生まれたのか考えてみると、

  • 給与所得の源泉徴収票は、確定申告書に添付義務があったこと(2019年3月まで)
  • 給与所得の源泉徴収票と報酬等の支払調書は、2015年までは同じサイズの書類であったこと
  • 会社を退職した独立直後の個人事業主が、源泉所得税の金額が書いてある書類という意味で、源泉徴収票と支払調書を同一視しやすいこと

という理由ではないかと、筆者は考えてます。

実際のところは、給与所得の源泉徴収票は確定申告に必要ですが、報酬等の支払調書は別になくてもかまわない書類です(あくまで参考程度のもの)。

当ブログでは以前の記事で、事業主向けに「支払調書を交付する義務はないが、事実上、支払通知書としての役割を担っているものであること」を説明しました。

また、個人事業主向けでは、自分で請求書を作成している場合、その請求書控えを利用して確定申告を行うのがルールであることをお伝えしました。

フリーランス(個人事業主)の視点から、確定申告と支払調書の関係について説明します。 ...

源泉徴収票の添付不要で、支払調書の交付要求は減るか?

繰り返しになりますが、2019年4月以降、給与所得の源泉徴収票を確定申告書に添付する必要はなくなりました。

これにより、「支払調書も確定申告書に必要」という思い込みも、緩和されるでしょうか?

検討1.支払通知書としての役割は変わらない

報酬等の支払調書は、2019年の現在でも、実質的な支払通知書としての役割を担い続けています。

支払通知書がないと、支払の相手方では納税額の把握が難しいことから、この役割が求められているのは理解できるところでしょう。

支払通知書としてのフォーマットにわざわざ支払調書を利用するのは、「税務署に送ったついでに、支払相手にも交付しておこう」という話であり、事務手続きとして簡便なためと思われます。

確定申告シーズンに支払調書が一斉に送付される慣習が続けば、「確定申告に支払調書は必要なんだ!」という個人事業主の考え方も、続くことでしょう。

ある会社から支払調書が届けば、支払調書を送ってくれなかった会社についても、「支払調書をもらえますか?」という問い合わせを個人事業主がすることは、当然にありえます。

余談ですが、ほとんどの支払調書は「支払った時期」で作成されているはずなので、「支払調書の額=売上」と考えると、正しい売上で把握できない可能性が高いでしょう。(例:1月に支払を受けたものは、前年12月締めの売上である場合)

検討2.収集と添付は異なる

上記のように、個人事業主は確定申告の必要書類として、支払調書を集めている事情があるわけです。

とくに独立したばかりの個人事業主では、源泉徴収票と支払調書が同時に手許にある場合も多いでしょう。これらの書類をすべて、確定申告書の台紙に貼り付けている可能性は高いです。

また、源泉徴収票と支払調書には「源泉所得税」の金額が書いてあります。「自分がすでに払った税金の証明書」という考え方も、背景にあるのかもしれません。

しかし今回、源泉徴収票が添付不要とされたことで、これと同時に、集めた支払調書を添付することもなくなることでしょう。

ただし、これは「添付をしないだけ」であり、支払調書を収集するという行為に変化があるかというと、それは期待薄といえそうです。

会社にとっては説明しやすくなった

源泉徴収票が添付不要とされたことにともない、会社は、個人事業主に説明をしやすくなったという考え方はあるかもしれません。

個人事業主に対して「確定申告の省エネ化が進んでいる」という背景を説明しつつ、

  • 源泉徴収票も支払調書も、確定申告書に添付する必要がないこと。
  • 支払調書は会社にとって交付義務はない書類で、会社としても労力を削減していること。
  • 例外として、請求書の発行を受けていないものだけに限定して支払通知書を交付していること。
  • 個人事業主は、自分の請求書控えで請求額・源泉所得税を確認してほしいこと。

という流れで説明しやすいからです。

確定申告における計算は、基本的に事業主本人で行ってもらうことを理解してもらう説明も重要でしょう。

まとめ

源泉徴収票の添付不要という改正によって、個人事業主と支払調書の関係に影響を及ぼすかを考えてみました。

源泉徴収票と支払調書が同一視されていることの誤解から、個人事業主の確定申告書には、支払調書も添付されていた可能性があります。

ところが、源泉徴収票が添付不要となれば、支払調書も添付することはなくなります。しかし、これが収集不要という認識にまで及ぶかを考えると、やはり難しいところです。

これは「支払調書は収集する必要性のあるもの」という根強い考え方があるためで、源泉徴収票が添付不要となっても、これが支払調書の発行の慣習にまで及ぼす影響は、少ないものと予想されます。

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