2020年10月に正式提供される「年末調整ソフト」を研究する記事です。今回は、年末調整ソフトで作成した扶養控除等申告書には、作成日の情報が付与されている点をお伝えします。
説明のポイント
- 年末調整ソフトで作成した扶養控除等申告書などのデータには、「参考情報」として「提出年月日、ID、異動申告」の情報が付与される
- 「後付け作成」を防ぐしくみ
- 扶養控除等申告書は、その年の給与支給日の前日までに提出が必要
「年末調整ソフト」とは?
実務への影響が予想されることから、当ブログでは「年末調整ソフト」についての紹介記事を書いています。
年末調整ソフトは、2020年10月に正式版が提供される予定です。しかし、正式版がリリースされてから対応を策定すると、非常に慌ただしいことになります。
また、新しいしくみであることから、実務に与える影響も不透明な点が見受けられます。こうした点を危惧し、当ブログで研究を進めています。
扶養控除等申告書に「参考情報」が付与されている
今回の記事は、年末調整ソフトで作成する「扶養控除等申告書」などのXMLデータには、「参考情報」という情報が付与されている点をお伝えします。
この「参考情報」ですが、
- 提出年月日
- ID(社員番号等)
- 異動申告
の3点を指します。
プロトタイプ版「年末調整ソフト」から書面印刷した「扶養控除等申告書」を引用します。
この扶養控除等申告書は、「2020年7月2日」に作成しました。よって「提出年月日 2020年(令和2年)7月2日」という参考情報が記載されています。
なぜ違和感があるのか?
税務署に提出する申告書では、「提出年月日」の欄があることは常識です。
これに比べ、扶養控除等申告書などの年末調整書類に「提出年月日」がないのは、これが会社に提出する書類、という事情があるでしょう。
年末調整ソフトに「提出年月日」の参考情報が含まれていることは、こうした「常識」を崩す仕様であるといえそうです。
「参考情報」とは何か?
国税庁様式の扶養控除等申告書では、提出年月日を記載する欄は見当たりません。令和3年分の予定レイアウトを見ても同じです。
つまり、提出年月日の参考情報とは、年末調整ソフト独自の情報であるといえます。
そんな仕様に違和感を覚えるところもありますが、法令では、所得税法施行規則73条に「その他参考となるべき事項」が扶養控除等申告書の記載事項のひとつに挙げられています。
「提出年月日」は、法令上の「参考となるべき事項」として、年末調整ソフト独自の「参考情報」に含まれていると考えてよいでしょう。
提出年月日の記録は、提出期限を監視する
「提出年月日」の情報は、扶養控除等申告書などの年末調整書類を出力した時点の情報が付与されるようです。
これで気になるのは、扶養控除等申告書の提出期限との兼ね合いでしょう。
扶養控除等申告書の提出期限は、「その年の最初に給与の支払を受ける日の前日まで」とされています。
もし25日が給与支払日だとすると、1月24日が扶養控除等申告書の提出期限です。
実際に提出日でもめた事例もある
この扶養控除等申告書は、会社に提出して保管する書類であることから、税務調査がない限りは、会社内で保管したままです。このため、雑な対応も見られるようです。
扶養控除等申告書は会社で保管することとなっている都合上、調査官がその提出日を確実に把握することはできません。こうした仕様がネックとなって、トラブルとなった裁決事例も存在します。(平成30年2月7日裁決)
その裁決をかいつまんで、紹介します。
税務調査において扶養控除等申告書を即座に提示できず、調査の2ヶ月後に指摘を受けた翌日に税務署に郵送したものの、代表者の答述が不自然であること、扶養控除等申告書の筆跡が疑わしいことや、その従業員の答述があいまいなために、扶養控除等申告書の期限内提出が認められなかった、というケースです。
裁決を読むと、筆跡の鑑定まで行われていて、なんだか胸が熱くなります。
この裁決事例では、税務調査で指摘を受けたあとの扶養控除等申告書の「後付け作成」が疑われています。
紙の扶養控除等申告書では提出年月日を把握することはできませんので、提出期限をめぐっての争いが起こりうるのは必然といえます。
年末調整ソフトではこのような問題を防ぐため、提出年月日の参考情報を含めることで「後付け作成」を防止していると考えられます。国税にとっては「理想的」なしくみといえそうです。
まとめ
2020年10月から提供される「年末調整ソフト」で作成した扶養控除等申告書などのXMLデータには、「参考情報」として提出年月日などの情報が付与されている点をお伝えしました。
これは事実上の「後付け作成防止機能」といえます。紙の扶養控除等申告書のような「イージー」な対応は不可で、その提出日が厳格に問われます。
扶養控除等申告書も、必要があれば税務署に提出すべき税務書類の一つであり、提出期限も定められているわけですから、国税として提出年月日を記録させることは「理想的」といえます。
平成30年2月7日裁決のような過去の事例を見れば、なおさらのことでしょう。
「年末調整ソフト」は、国税庁が提供する無料ソフトとのことですが、こうした独自機能が組み込まれていることも認識したいところです。