確定申告が必要だから、1年分の帳簿をまとめて作成している。たしかに、個人事業主の方はそういう感覚もあるかもしれません。でも、それで本当にいいのですかね?
一個人の税理士の意見を述べておきます。
さあ確定申告! これから会計帳簿をつくる?
確定申告シーズンだ! たまった領収書を集めて、一気に帳簿をつくって、ようやく確定申告が完成! おつかれさまでした!
……これって、本当にこれでいいのでしょうか。
確定申告と納税のために、嫌でもなんとか会計帳簿を作っているのだから、それはしょうがないのかもしれません。
テンションだって上がりませんし、べつに会計帳簿を付けたって、1円ももうかりません。
夏休みの宿題を8月最終週にやる人
突然ですが、夏休みの宿題を8月最終週にやる人をどう思われますでしょうか?
もっと早くやっておけよ、と思うのが当然でしょう。
では、帳簿はどうでしょうか?
会計や帳簿を論じたものは多くあるでしょうが、わかりやすいのは、会計帳簿を「ビジネスの日記帳」と考える方法でしょう。
日々の取引を記したものが会計帳簿ということですから、これはまさしく「ビジネスの日記帳」といえるものです。
「日記帳」と考えるのであれば、これを1年まとめてつけることに、違和感をもってもらえるのではないでしょうか。
つまり、確定申告シーズンに領収書を集めて、1年まとめて帳簿を付けるという行為は、「8月の最終週に、夏休みの日記の宿題をまとめてやるようなもの」といえます。
日記は日々付けるものであって、まとめてつけるものではありません。これは帳簿も同じではないでしょうか。
「丸投げ」でいいのでしょうか?
自分が忙しくて帳簿なんて見たくもない、ということであれば、「丸投げ」という方法もあります。
「丸投げ」とは、通帳・請求書の控え・領収書をまとめて会計事務所に送れば、ぜんぶお任せでやってくれるサービスのことです。
当然ですが、この記事の主張ではまったく賛同しないスタイルです。ビジネスの日記帳を他人に代筆を頼むようなものだからです。
会計事務所の都合からすれば、こうした「丸投げ」にも対応することは当然とされています。なぜなら、「人の嫌がるところにニーズあり」だからで、ビジネスの基本ともいえるからです。
筆者としても、すべての人が等しく帳簿を作れるとは考えていません。人間の時間や能力には、どうしても限界があるでしょう。
ただし、「丸投げ」というスタイルが当然であるかのような風潮を作り出すのも、問題のように感じます。
会計ソフトへの入力が無理でも、帳簿に類するものを事業主で集計してもらうことは可能なはずです。
「領収書を集めれば税金が減る」論への微妙な違和感
専門家が説明する書籍にも、領収書を集めて、必要経費にすることで税負担を減らせるから、オトク! と説明するものがあります。
確かに言っていることに間違いはないのですが、なにか大事なことを置き忘れてきている気もします。
当然ですが、領収書を集めるのは、領収書を税務署に送付するためではありません。領収書をもとに会計帳簿を作成するためで、この会計帳簿をもとに、税務申告書を作成しています。
そうなれば、領収書を集めることの次には、「会計帳簿をしっかりつくりましょう」という説明が続くはずなのですが、そのような説明は見られず、65万円控除を満たすためのテクニックが説明されるばかりです。
つまらないことを書いても、読者からは受けが悪いでしょう。
年明けにあわてて領収書を集めるのではなく、もともと整理してある領収書をもとに帳簿を作成するのが、基本の流れです。
青色申告は「1年ぶっ込み帳簿」にも特典を認めているが……
青色申告は、記帳の義務を普及させるためのものとされていますが、「1年ぶっ込みの帳簿」にまでも特典を認めているので、どこか違和感のあるものになっています。
もちろん、帳簿をいつ付けたのかなんて、紙の帳簿の時代ではわからなかったわけですし、税務署としても期限までに申告書が提出されれば不満はないわけです。
しかし、これからの電子帳簿の時代では、履歴が残るようになると、記帳した時点もわかります。帳簿への理解が高まってくれば、遠い将来では特典に制限もあるのかもしれません。
帳簿をきちんとつけましょう、という話
この記事の話を整理すると、「帳簿はこまめにつけるものであって、1年まとめて作るのは違和感がある」ということです。
しかし、こうした当然の原理を持ち出すと、前例主義にまみれた反論が多数返ってくることでしょう。
現状でできることは、こうした話をわかってくれる方に、なるべくこまめに帳簿を作成することをお願いするしかありません。
また、「確定申告シーズンを乗り切る」といった風潮もどこか違和感があります。
「1年間の帳簿をこれから作る」のではなく、「すでに1年間まとめてある帳簿をもとに申告書を作る」という方向に、少しでも変えていくことが理想でしょう。