「消費税はいただいておりません」表示は諸刃の剣

前回の記事で、免税事業者の価格表示において「消費税はいただいておりません」という説明は可能だろうか、という案を提示しました。しかし、筆者としてはこの表示方法を積極的に推奨しているわけではありません。実務上生じる問題もあわせて述べておきます。

説明のポイント

  • 「消費税はいただいておりません」という説明は、免税事業者の説明として利便性はあるが、価格転嫁の対応で不利になるデメリットを含んでいる
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安売りと認識され値上げが難しくなる

「消費税はいただいておりません」という説明は、価格表示において「税込」と説明しづらい免税事業者が、売価が本体価格のみである(=インボイスは発行できない)ことを想定した説明として前回の記事で提示したものです。

しかし、このような説明が当然にデメリットをともなうものであることも、認識しておく必要があります。

その理由のひとつが、「安売り」の意味で受けとめられる可能性です。「あそこの店は消費税がない、だから他よりも安い(かもしれない)」と理解される、ということです。

消費税がないというイメージは、一時的には「安い」と受けとめられる可能性が高いでしょう。

もともと「消費税はいただいておりません」というフレーズが過去に見られたのも、安売りをアピールするためのものだったと思われます。

しかし、今後において物価の上昇があたりまえになった場合は、価格改定を繰り返す必要が生じます。そうなると、安売りイメージが定着している場合には、それが逆効果となって値上げをしづらい状況になってしまう可能性があります。

現状では価格変動が少ない業態だったとしても、今後どうなるかは誰にもわかりません。

消費税は自腹負担なのでその分が売価に反映される

免税事業者は消費税を納税しなくていいのだから、課税事業者と比較した価格表示は有利なのでは、という気もします。

同じものを販売しているとして、課税事業者が「税込110円」で売っているものを、免税事業者は「100円」で販売しているのであれば、売価として優位にも見えるでしょう。

しかし、免税事業者は、納税義務がない代わりに、仕入や経費にかかっている消費税を自腹負担する必要があることにも留意が必要です。

課税事業者は、納税計算において、仕入や経費の消費税を「仕入税額控除」として差し引くことができます。つまり、仕入や経費の消費税は自腹負担ではありません。

一方、免税事業者は仕入税額控除ができませんので、この点が不利です。そうなると、仕入税額控除ができない分を売価に価格転嫁する必要が生じますので、「100円」のままで販売すると不利になります。(同一条件の競争であることを前提として)

このため、免税事業者の売価は、仕入税額控除ができない分の価格転嫁をふまえて「101円~110円」のどこかで設定されるはずです。免税事業者だから税抜ベースで価格設定できて圧倒的に有利、とはいいきれないのが実情と思われます。

昨今、インボイス制度の論議にからめて、免税事業者の益税批判において売価の消費税相当額を「丸取り」しているかのような意見が見受けられますが、仕入経費の消費税を自腹負担していることには留意が必要でしょう。

「消費税はいただいておりません」という説明をしたとしても、同一の商品を販売したときには、課税事業者の本体価格(税抜)と免税事業者の売価(税抜)が同一かというと、そうではないということになります。

つまり、「消費税はいただいていない」というように大見得をきったわりに、期待された10%は安くない、という見方をされる可能性もあります。

税率引上げで苦境になる

さらに気になるのが、将来起こりうる消費税率の引き上げです。

軽減税率という制度が設けられたのは、生活に影響の大きい飲食料品の税率は8%で固定化して、それ以外の標準税率は今後も引き上げるための地ならしなのではないか、という主張を読んだことがあります。(引用元を記録していなかったので資料を示せずすいません)

消費税率が今後もさらに引上げになるのかは誰にもわかりませんが、現状はたった2%の税率差なのにこれほど苦労してインボイス制度を導入するということは、さしあたり今後も複数税率がずっと継続することは間違いないと考えても、不思議はありません。

話を戻しますが、税収不足の国で商売をする以上は、今後も消費税の税率引上げを想定しておく必要はあるでしょう。(税率引上げに賛同するかは別として)

もし消費税が引き上げられたときに「消費税はいただいていない」と表示していると、価格転嫁への対応として不利になるかもしれません。

税率引上げを理由として売価は引上げられないのに、仕入経費に含む消費税の負担は増えることで、差し引きの利益は減少します。

ただし物価の上昇が続く状況であれば、税率引上げとは関係なく、売価を引き上げても「便乗値上げ」などといわれる可能性は少ないかもしれません。それはそのときになってみないとわからないでしょう。

まとめ

前回の記事で書いた記事で、当ブログが「消費税はいただいておりません」という説明をノンリスクで推奨していると思われると困るので、フォローとしての記事を追加しました。

「消費税はいただいておりません」という説明をした場合、免税事業者として利便性はあるように思いますが、価格転嫁の対応で不利になるデメリットを含んでいるといえます。

デメリットも考えてみると、「なぜ税込じゃないのか」と聞かれたときの説明にとどめる程度で、積極的にアピールするのはやめておいたほうがいいのでは、という気もします。

この先さらに「なぜ消費税がないのか」と突っ込まれて聞くと、税金をごまかしているなどと誤解されるのを避けるために、制度の説明からしなければならないでしょう。

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