「ブラケットクリープ」という隠れた増税 インフレで税負担が増える?

物価が上昇するにつれて所得も上昇する場合に、もし税率の構造が変動しないのであれば、納税者の税負担が増えてしまう……という問題を紹介します。

説明のポイント

  • 物価上昇とともに所得が増えた結果、適用する税率が上昇し、実質的な税負担が増える「ブラケットクリープ」という問題がある
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物価増・収入増でも税制が不変であれば…?

冒頭でも書きましたが、物価上昇につれて収入や所得も増えていく場合に、もし所得税の控除額や税率の構造が不変だとするならば、事実上税負担は増えるという問題があります。

所得税は累進課税のため、インフレにあわせて所得も増えれば、適用する税率が上昇します。所得控除についても適用額は固定されており、インフレにあわせて自動調整するしくみはとくに見当たりません。

もしインフレにあわせて収入が同じ割合で上昇としたとしても、適用する税率が上昇すれば、税引き後の手取りはインフレと同じ割合の増加にならないので、生活は苦しくなるのでは…… 筆者は以前から、この点がうっすらと気になっていました。

最近読んでいた財政学の書籍で、この問題について触れているものがあり、「ブラケットクリープ」という用語があることを知りました。

「ブラケットクリープ」とは

佐藤滋・古市将人『租税抵抗の財政学』(岩波書店、2014年、P86)には、次の記述があります。

所得税の痛税感を考える上で、不公平税制論を考慮に入れる必要がある。簡単に整理し直せば、日本の租税構造が消費課税へシフトし始めたのは、所得税に対する人々の不信を払拭できなかったからである。特に、ブラケット・クリープに日本の勤労所得者は苦しんだ。ブラケット・クリープは、インフレによる名目所得の増大が、人々が直面する所得税の限界税率を高める現象のことである。

引用にあるとおり、「ブラケット・クリープは、インフレによる名目所得の増大が、人々が直面する所得税の限界税率を高める現象」とのことです。

ブラケットは所得階層の区分のことで、限界税率は税額計算のときに使用する税率のことです。ここでいう「限界」とは、限度ではなく、境目という意味です。

過去の税制上の問題として、所得税から消費税へ移行するきっかけのひとつに、ブラケットクリープによる所得税への不信感があったというのは、ブログ筆者は恥ずかしながら初耳でした。

言及が少ないような……?

余談ですが、Googleの日本語検索で「ブラケットクリープ」を検索しても、ヒットする論文やホームページがかなり少ないことに気づきました。

日本ではインターネットの環境が整った1990年代後半からは、物価上昇に苦しんだ経験がなかったことも、ネット上での言及が少ない一因かもしれません。

なお、検索でヒットした橋本恭之教授のホームページのうち「財政学用語集」を読むと、インデクセーション(物価調整)の項目でブラケットクリープについて言及されており、日本の所得税法では物価調整のような仕組みはなく、財政再建下の昭和50年代後半では(ブラケットクリープによって)実質的な増税がおこなわれてきた、とされています。

1991年の書籍からの転載とのことで、当時は日本でもまだホットなテーマだったのかもしれません。

wikipediaの英語版でも”Bracket creep”の項目が見つかりました。こちらでは、限界税率に変化がない場合でも、平均税率の上昇による問題が指摘されています。

なお、wikipediaのリンク先にある論文の表題を見ると、ブラケットクリープは「隠れた増税(Hidden tax increases) 」などと表現されているようです。

まとめ

インフレにあわせて所得が増えても、税率の構造が変わらなければ、実質的な税負担が増える「ブラケットクリープ」という問題について紹介しました。

昨今よく耳にする「インフレ」が継続的なものになるのかはわかりませんが、ホコリをかぶっていた問題が、再び話題になる日もあるのかもしれません。

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