国税や地方税の電子納税の動きを見ていると、会計事務所が預かっている顧客の利用者IDの扱いや納税の実務について、対応を再検討する時期に来ているようにも思われます。
1.予定申告の納付書の送付取りやめ(国税)
2024年5月から、法人税と地方法人税について、予定申告にかかる納付書の事前送付が行われないこととされました(参考)。
事前送付されない条件は、電子申告や電子納税に対応済みの法人です。書面申告で紙の納付書を利用している法人には継続して紙の納付書が送られています。
これよりも前には、すでに申告用紙も送られないこととされているため、予定申告に関する事前の通知は、多くの場合でe-Taxによる電子通知に一本化されたものといえます。
なお、消費税及び地方消費税の中間申告については、申告用紙と納付書のいずれも現状では送付されています。
2.PCdesk利用のダイレクト納付における二段階認証の導入(地方税)
2025年3月、PCdeskを利用したダイレクト納付について、二段階認証のしくみが導入されました(参考)。
ダイレクト納付を利用する前に、登録してあるメールアドレスにワンタイムパスワードが送付され、そのパスワードを入力することで、納付手続きに進むことができます。
このため、電子メールの登録を、納税の担当者と一致させる必要があります。
利用者IDは誰が管理するのか?
上記2件の対応の変更についてブログ筆者が感じることですが、会計事務所が顧問先の利用者IDを預かる(=顧問先はe-TaxやeLTAXに関与しない)状況や、納税の手続きをどうするかについて、再検討が必要とされているように思います。
上記1.の国税については、e-Taxのメッセージボックスを確認しないと、予定申告のお知らせを把握することができません。この確認は、会計事務所と会社のどちらが担当するべきでしょうか。
「お知らせ」から、そのまま納付手続きに進むことができる措置も設けられており、「お知らせ」の確認者が、納税の担当者であると、作業がスムーズです。
また、上記2.についても、納税の作業者とメールアドレスの送付先を一致させる必要があります。
これまでの実務としては、「会計事務所は申告を担当」「納税は会社が担当」という役割分担をしていることも多いと思われます。
そして、会計事務所が主導して電子申告を導入した場合には、その利用者IDを会計事務所が預かっていることもそれなりに多いと思われます。
これまでは、電子申告には対応しつつ、電子納税には対応しないことで、これまでの役割を維持することが可能でした。しかし、このような状況は限界が近づいているようにも思われます。
上記2.の二段階認証の導入にあたり、地方税共同機構が作成した資料に、あるべき方向性が示されています。
・eLTAXは、納税者は納税者本人の利用者IDを持ち、税理士等の代理人は代理人本人の利用者IDを持ち、それぞれが自身のメールアドレスを登録し、管理することを想定した設計となっています。
引用:地方税共同機構「別紙_二段階認証導入による操作の変更点」
国税や地方税共同機構が、現状をどのように考えているのかはわかりませんが、会計事務所が顧問先の利用者IDを預かり続けていることが多い現状を、あまり好ましく思っていないのでは……とも思えます。
もちろん、会計事務所にも言い分はあるでしょう。その言い分を国税も地方税共同機構もわかっているからこそ、利用者IDの会計事務所預かりについては表立って議論をしてこなかったようにも思われます。
そうはいっても、行政側がキャッシュレス納付を推進するうえでは、ボトルネックになっている問題ともいえそうです。
対応は?
会計事務所が利用者IDを預かり続けるのであれば、ダイレクト納付の処理まで会計事務所が引き受ける対応も考えられるでしょう。また、今後広まるであろう自動ダイレクトを利用する手もあるでしょう。(※自動ダイレクトという制度じたいが、そのような意図も含んで用意された可能性もあります)
または、納付情報登録依頼に表示されているペイジーのコードを会計事務所が確認して、そのコードを会社に伝達することで、従来の役割分担を維持したまま電子納税に対応することもできるでしょう。
ただし、利用者IDを会計事務所側で預かりつづけることは、顧問先がe-TaxやeLTAXを利用しての源泉所得税や個人住民税の電子納税には対応できないことを意味します。もし会計事務所側でこれらの納税に関与しないのであれば、引き続き紙・窓口の処理が続くことになりますが、それは会計事務所側の都合の押し付けになっていないか、という点も自問する必要があるかもしれません。
利用者IDと暗証番号を顧問先に共有するのであれば、顧問先にe-Taxソフト(WEB版)やPCdeskを利用してもらい、電子納税に対応できるように指導していく必要もあるでしょう。
しかし、ベンダー製のソフトを使っていることが多い場合は、e-Taxソフト(WEB版)やPCdeskの利用方法を指導できるほどの経験に乏しいかもしれない……という懸念もあります。
上記1や2のような措置が行われていることを考えると、会計事務所における利用者IDの預かりの状況について、再検討を促されているようにも感じられるところです。
しかし、対応の変更には作業コストもかかることや、簡単に解決できる問題ではないために「渋滞」を起こしているような印象も覚えます。

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