確定拠出年金制度の周知が功を奏しており、「節税」というキャッチコピーを目にすることも多くなりました。この点について、知識を補足する説明を述べておきます。
説明のポイント
- 拠出時(入口)は所得控除、受取時(出口)は退職所得or年金受取で優遇される
- 出口の優遇制度に暗雲。退職所得・年金控除の見直しを訴える声
iDeCoはなにが節税なのか?
メディアでもやたらと目にすることが多くなった個人型確定拠出年金制度(iDeCo・イデコ)。
これまでのように、会社や国におまかせの年金制度ではなく、自分で預け入れた資産を運用し、その利回りで退職後の年金を確保していくことを目指す「自己責任」の年金制度です。
イデコのメリットは、検索すれば山のように情報があふれています。ここでくわしく述べることはしませんが、かいつまんで述べると、次の3点がメリットです。
(運用時)積み立てた年金の運用益が非課税になる
(受取時)年金受取時も課税の減免がある
入口が「節税」でも、出口は「課税」
確定拠出年金制度で調べてみると、「節税!」というメッセージがあふれています。先ほども述べたとおり、これは掛金拠出時に「所得控除」を受けられるからです。
この所得控除とは、事業・労働などの所得から、掛金の支払い分を控除できるので、税金がもどってくるというしくみです。税金が戻ってくるので、多くの人がこれを「節税」と呼んでいるわけです。
しかし、ここで忘れてほしくないのは、将来の年金受取時には課税がきちんと待ち受けているということです。
拠出時(入口)の「節税」ばかりを強調し、受取時(出口)の部分をびみょうに隠しているようなメッセージもチラホラあって、少し気になるところです。
退職後のことなんてどうせ数十年も先なんだから、勧誘するためには目先のことだけ話しておけばいいだろう、どうせ説明しても気にもされないし……ということなのかもしれません。
「出口」の課税が優遇されているから「節税」
さきほど述べたとおり、イデコが「節税」と認識されているのは、掛金を払ったことで税金が戻ってくるから、ということでした。
しかし、税金というしくみをよく理解していると、実はそこは「節税」のポイントではありません。なぜなら、将来年金を受取るときに課税があるならば、前にオマケしてもらった税金が回収されてしまう恐れもあるからです。
ひらたくいうと、こういうことでしょうか。
「なあ、まえにおまえが掛金を俺に納付した時に、税金をおまけしてやったろう。おまえ「節税」とかいって喜んでたよな。で、こんど、その掛金を年金としておまえに払い戻すじゃん? その年金は税金がかかるからさ。前にまけてやった税金、そこできっちり返してもらうわ」
掛金拠出時に還付された税金と同じ分だけ、年金受取り時に税金が徴収されたら、まさか「節税」などと喜ぶひとはいないでしょう。
では、現行の制度において、掛金の納付が「節税」と主張されており、多くの人がそれで納得している理由は、年金受取り時に国が「きっちり返してもらっていない」からです。
確定拠出年金の受け取りは、一時金として受け取った場合の退職所得や、分割して受け取った場合の公的年金等控除によって、優遇されます。
つまり、拠出時に「所得控除」を受けられて、受取時の課税も優遇されているから、それをトータルでみると節税、と見ることができるわけです。(もちろん、運用益が非課税というのも大きいですが)
退職時の優遇された課税は安泰ではない
残念なお知らせですが、このような退職時の課税がゆるいバラ色の制度は、いつまでも続かないと考えられます。
現行の退職所得や年金への課税は、あまりにも優遇されすぎているからです。
厳しい財政状況により、各種の課税が強まっているのは、みなさんご存知のとおりです。
とくに個人への課税は、これまで現役勤務者に対して非常に厳しく、給与所得控除のカットなどを実施しています。税金以外にも、社会保険の料率をガンガン引き上げており、その保険料を老齢世代にまわしています(それでも足りない)。
財政が厳しくなるほど、手当たり次第にカットできるものがカットされていくはずです。次に手を付ける候補には、退職所得や年金課税も当然に含まれるでしょう。
誤解してほしくないのは、こうしたことで「国は横暴だ!」と受け取る反応です。なぜなら、この制度の見直しを強く訴えているのは、税理士も同じだからです。
すべての税理士が加入する団体である日本税理士会連合会は、学識者へ諮問した税制のあり方において、年金や退職所得の課税について見直しを主張しています。
参考:平成29年度「個人所得課税における控除方式と負担調整のあり方について」
そこで述べていることをかいつまんで紹介すると、次のとおりです。
- 公的年金等控除についてはさらなる見直しが必要
- 現行の退職所得控除は過大
- 勤務年数に応じた控除額の差異は就労形態の多様化に対応できていない
- 退職所得の2分の1課税制度の是非も再検討する必要がある
税金の制度を知っている人ならば、青ざめるようなことが満載になっています。これを簡単にいうと、退職金・年金についてバラ色の制度はもう維持できません、ということでしょう。
いまのうちに制度に手を付けないと、現役世代だけが「宴のあと」の片付けをさせられる、という事情もあります。
iDeCoに配慮した制度になればいいですが
税理士会から諮問された学識者が提言しているように、退職所得・年金課税に関する制度は、もう維持が難しいでしょう。そう遠くないうちに見直しが予想されます。
そうなったときに、いままでと同じようにiDeCoを気軽に「節税」と連呼できるのかはわかりません。「節税」の色合いは、現行よりも薄くなる可能性が高いといえます。
若い人が制度に加入したとしても、受け取るのは数十年も先の話であり、そんな先の税制改正を予測するほうが無理な話です。
とにかくいまわかっていることは、国の財政が逼迫しており、現行の大盤振る舞いの優遇税制も見直しの可能性が高いことです。
年金をポータブルに持ち歩けるiDeCoのような制度は、これからの就労形態にマッチしていることを考えると、多少の優遇税制はあってもよいように考えますが、その点はわかりません。
まとめ
将来的に予測される、退職所得課税の見直しや、年金控除の削減について言及しつつ、iDeCoの案内でよく見られる「節税」という表現も、けっしてバラ色ではないことをご案内しました。
気持ちが暗くなってしまうような話であり、こういうことを書いてもまったくウケが悪いので、正直どうかなという気持ちです。
でも、将来の予測・制度の改正がある程度わかっているなら、言うべきことはきちんと言わないとダメだと考えています。