2019年7月頃に、電子帳簿保存法の一部が緩和される予定です。ここでは、小規模企業における経理にスポットを当てて、緩和の内容を考えてみます。
説明のポイント
- 2019年7月頃に、電子帳簿保存法の見直しが実施される
- 自らレシートスキャンする場合の日数制限が「おおむね3営業日以内」に緩和され、事業主自らが経理している場合でも使いやすくなる
税制改正と電子帳簿保存法
平成27年度(2015年度)・平成28年度(2016年度)に続き、令和元年度(2019年度)においても電子帳簿保存法の改正が実施される予定です。
この点について、国税庁ホームページにおいて「令和元年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要について」という告知が2019年5月に掲載されました。
この概要を読むと、「平成31年度税制改正」における法令改正のほかに、通達等の改訂なども見られ、税制改正よりも内容が広がっていることがわかります。
ネックだった「3営業日以内」
平成28年度(2016年度)では、スマホでスキャンOKになったことや、相互牽制のない小規模企業者においても税理士による定期検査が認められるようになり、制度上は少しずつ使いやすくなっています。
しかし、現実をみるとなかなか難しい面もあります。
まず前提ですが、小規模企業(個人事業を含む)では、経理などの間接業務までをすべて事業主一人でこなすことも多い、という事情があります。
引用:2018年度小規模企業白書(中小企業庁)
つまり小規模企業の事業主は、営業から経理その他までなんでもひとりでこなすため、非常に多忙です。
そんな小規模企業の事業主が、スキャナ保存に興味を示しても、実際にその要件を見てみると、戸惑いを感じるのが事実でしょう。
事業主だけで経理をこなす場合は、従業員は経理にノータッチとなります。(当然ですが)
そうなると、事業主が受領したレシートは事業主自身でスキャンするわけですが、これをすべてチェックする担当者はほかにいないので、次の要件となります。(小規模企業者のみ)
- レシートを受け取ってから3営業日以内にスキャンしてタイムスタンプを押す
- スキャン前に、レシートに自分の名前を書く
- 年1回以上、税理士が定期的に検査する
これらの要件を考えると、「3営業日以内」といわれても、繁忙期を考えれば戸惑いを感じるのが事実でしょう。
それなら紙のままでいいです……ということになってしまいます。
緩和される内容は?
この厳しい要件が、一部緩和される予定です。
レシートを受け取った人が自らスキャンする場合において「3営業日以内にスキャンしてタイムスタンプ」の日数制限は、「おおむね3営業日以内」に変更されます。
「おおむね3営業日以内」であれば、スキャナ保存導入への心理的な抵抗感も、いくらかは減ることでしょう。
ちなみに、このような「3営業日以内」の日数制限や、「自分の名前をレシートに書く」というひと手間がある理由ですが、改ざんを防止するためとなっています。
定期検査も「おおむね5年」に緩和
通達の見直しの内容を見ると、定期検査を「1年に1回以上」から「おおむね5年のうち」に見直す内容も見られます。
もともと「1年に1回以上」ということであれば、小規模企業者の場合では、税理士が決算で定期検査を実施し、検査OKであればレシート類を廃棄する……というサイクルになるはずです。
これが「おおむね5年のうち」になると、税理士による年1回以上のチェックは不要です。
その代わり、定期検査が終わるまではレシート類を廃棄することはできませんので、そもそものスキャナ保存の効果も薄れてしまいそうです。
まとめ
電子帳簿保存法におけるスキャナ保存について、「3営業日以内」の要件が緩和される点についてお伝えしました。
多忙な小規模企業の事業主においては、とくにネックとなっているのがこの部分でしたので、「おおむね3営業日以内」への緩和は歓迎されるべきものです。
とはいえ、それでも「おおむね3営業日」という日数制限については、小規模企業の不安定な業務サイクルを考えれば、やはり心理的抵抗を感じる部分もありそうです。
小規模企業者の特例では、もう少し日数をゆるめにしてほしいというのが、筆者の個人的な意見です。
参考文献
- 袖山喜久造・坂本真一郎著『中小企業のための国税書類のスキャナ保存入門』(2017年)