「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」は、今年(2020年)2月に国税庁から発表されたものです。
このFAQにおいて、年調ソフトとはあまり関係はないようですが、実務では微妙にありそうな事例として、PDFやExcelシートで作成した年末調整書類に関する取扱いが示されていますので、参考までに採りあげてみます。
説明のポイント
- 自作のExcelシートやPDFなど、データとして扶養控除等申告書などの年末調整書類の提出を受ける場合は、税務署への事前の承認申請が必要
「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」とは
今年(2020年)10月から始まった「年末調整手続の電子化」により、国税庁からは年調ソフトが提供されています。
この電子化対応は必須ではありませんが、会社の事務負担の軽減が見込める可能性もあることから、当ブログでも繰り返し紹介してきました。
この電子化の案内で、国税庁が公表している「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」を読むと、基本的には年調ソフトを利用する会社向けの案内がなされています。
ところがこのFAQをよく読むと、一見すると年調ソフトとは関係ないが、世間的にはありそうな事例も紹介されていることに気づきます。
世間的にはあまり注目されることも少ないと考えますが、当ブログにて念のため採りあげておきます。
扶養控除等申告書を自作のExcelシートやPDFで提出・保管できるか?
まずは、「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」から、該当のQ&Aを引用します。
〔問2-15〕 次のような方法も電子データによる提供に該当しますか。
・エクセルシートやPDFファイルに必要事項を入力し、勤務先に送信すること
・手書きで扶養控除等申告書や保険料控除申告書を作成し、それをスキャナーで読み込んだデータを勤務先に送信すること〔答〕 ご質問の方法については、法令上はいずれも「電磁的方法により提供する者の氏名を明らかにするために必要な措置」(〔問2-9〕参照)を講ずることで、電子データによる提供に該当することとなりますが、これらの方法では控除証明書等データを利用した申告書への自動入力ができないほか、勤務先側でも記載内容の確認事務の削減につながらないなどのデメリットがあります。
この〔問2-15〕のQ(問い)の部分を読むとわかるとおり、「電子データによる提供に該当することとなります」と書かれています。
この問よりも前の部分では、「年調ソフトから出力した電子データを従業員から会社に送信する場合の取扱い」が書かれていました。
その質問の流れを受けて、別の参考事例としてPDFやExcelシートをデータで提供した場合はどうなるのか? という取扱いを関連情報として示したものと考えられます。
FAQの全体では、年調ソフトの導入に向けたアドバイスが並んでいるのですが、この〔問2-15〕だけ、突然にExcelシートやPDF、スキャンしたデータに関する年末調整書類の取扱いを述べているため、微妙に違和感を覚えるところです。
Excelシート保管、PDF保管は、事前申請が必要
さて、前述のとおり、ExcelシートやPDFで作成した扶養控除等申告書などをデータのままで提出・保管する場合は、原則とは異なる取扱いであることがわかります。
具体的には、あらかじめ「電磁的方法により提供する者の氏名を明らかにするために必要な措置」として、税務署への承認申請が必要とされる、ということです。
「電磁的方法により提供する者の氏名を明らかにするために必要な措置」については、以前に当ブログで紹介しています。
【記入方法】
【承認申請の意味】
かいつまんで意味を説明すると、この規定は、年末調整書類における「本人確認」をどうするか、という取扱いです。
紙であれば押印で実施するところ、電子データでは押印できないために、事前承認を要件としてデータ保存を認めていると考えられます。
この措置については、これまで具体例はほとんど示されていませんでした。
実態としては、大企業を中心とした給与計算の電子システムや、中小企業も利用しやすいクラウド給与ソフトなどで適用されていると考えられます。
それが今回のFAQにより、ExcelシートやPDFで年末調整書類を作成し、データのまま会社に受け渡しした場合も、この措置の範囲に含まれて事前承認が必要ということが明らかになったものといえます。
「記入できるPDF」が国税庁ホームページでも配布されている
「そんなことをいったって、PDFで記入することなんてあるの?」という疑問も浮かぶかもしれません。
実をいうと、国税庁ホームページでは、記入できるPDFの扶養控除等申告書が配布されています。(令和3年分へのリンク)
つまり、このPDFに記入して、印刷しないでそのままPDFで提出を受けて、会社で保管する場合には、税務署への承認申請が必要です。
ホームページ上では気軽に利用できる記入可能な扶養控除等申告書のPDFが配布されていますが、実際のところは、データのままの取扱いには要注意ということです。
小規模事業者では、PDFベースで記入してそのまま保存しているような事例もあるかもしれません。
自作Excelシートに記入してデータで提出した場合も同様
また、自作のExcelシートで年末調整書類を作成し、それに記入していた事例も過去にはあったように感じます。
こうしたExcelシートに情報を記入し、データのままで受け渡しする場合も、やはり税務署への承認申請が必要といえます。
昨今では、年末調整に関わる法令改正が相次いでいることから、様式の枚数が増えるなどでコストパフォーマンスが悪くなっており、現在ではExcelシートの自作は減っているかもしれません。
なお、FAQでは、扶養控除等申告書などの年末調整書類には法令上の様式の定めがなく、所定の事項が記載されていればよいことも明らかにされました。(FAQ〔問5-24〕)
このことから、Excelシートの自作については、多少見栄えが悪くても、所定の事項が記入されていればかまわないと理解できます。(いまさら感のある話ですが)
年調ソフトで作成しても、PDFでの提出は事前承認が必要
令和2年分以降でありえるケースとしては、年調ソフトにより扶養控除等申告書などを作成したものの、年末調整書類を印刷せずにPDFのままで提出することでしょう。
FAQ問5-28によれば、書面提出の場合のPDFは、印刷するのが通常の対応です。
② 年末調整申告書を書面で勤務先に提出する場合
PDF 形式で出力するため、この PDF 形式を印刷の上、勤務先に提出してください
一方、データ提出の場合でもPDFが出力されますが、これは目視確認用に活用できるとされています。(ソフト開発者向けFAQ〔問1-3〕 )
つまり、年調ソフトから出力されたPDFについて考えてみると、これをデータで提出・保存することは通常は想定されていません。
書類提出を受けるならばPDFは印刷する必要がありますし、データ提出であればXMLファイルを活用するというのが手順です。
もしどうしてもPDFで提出して保存するならば、上記FAQに照らし合わせて、やはり税務署への承認申請が必要という理解になるでしょう。
まとめ
話がばらけてしまったので、最後に整理します。
まず、「年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」では、年調ソフトの使い方に関連し、ExcelシートやPDFなどで提出・保存する場合の取扱いが示されました。
これは、過去には未見の情報で、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請」の関連として示されたものと考えます。
年末調整書類のPDFやExcelシートについては、とくに意識することなくそのままデータのままで提出を受けている実例もあるかもしれませんが、これは税務署への承認申請が必要な方法ということです。
また、年調ソフトでも年末調整書類はPDFで出力されますが、これもPDFとして提出・保存するには、税務署への承認申請が必要と考えられるでしょう。