もはや業務においてチャットソフトを使うことはめずらしくありません。ところが、チャットソフトと税務の関係を考えてみると、微妙な面も浮かび上がります。
この記事では、こうした微妙な面を考察します。
説明のポイント
- チャットの履歴(ログ)も、ビジネスにおける業務文書の一つに位置づけられると提言している
- この場合、税務上の要件で問題になりうる想定を挙げている
JIIMAは、電子メールの保存を提言している
当ブログの2018年の記事ですが、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)が電子メールを社内文書の一つとして位置づけ、きちんと保存するよう提言しているレポートをご紹介したことがあります。
当時のブログ記事では、電子メールよりもチャットソフトを業務に用いることもめずらしくない点を指摘しましたが、この点の考察はとくに深掘りしませんでした。
テレワークへの相性も考えると、ビジネスにおけるチャットの利用も進んでいると思われます。
電子メールよりもチャットソフトによる業務連絡が主流、ということもめずらしくはありません。
チャットそのものは、古くはコミュニティでの掲示板やIRCという仕組みもありましたし、特定グループ内部でのグループウェアも提供されていました。
その後、ビジネスで他社の人ともチャットというスタイルが根付いていることを考えると、もう少し深い考察が必要になっているように感じます。
チャットソフトのログ保存は、小規模事業では支障あり
国産のビジネス用チャットソフトといえば、ChatWork(チャットワーク)が代表になるでしょう。
このChatWorkですが、エンタープライズプラン以外では、チャットの履歴(ログ)を出力することはできないとされています。
参考:チャットのログを保存できますか?(印刷など)(ChatWorkヘルプ)
エンタープライズプランは、5ユーザーからの申込みとなるため、少人数で働く個人事業主や小規模法人の場合は対象外です。
この場合、履歴の保存は自力の手作業によるしかありません。ChatWorkのヘルプでも次のように示唆されています。
フリープラン、ビジネスプランではエクスポート機能はありませんのでコピーペーストなどでログを保存・印刷してください。
相手先アカウントを削除するとログが消える
会話の履歴については、やりとりをしなくなった相手のアカウントを削除すると、これまでチャットした履歴も削除されます。
参考:コンタクトを削除する(ChatWorkヘルプ)
また、一度削除した履歴を復活させることは、原則として不可能とされています。
参考:削除されたメッセージやグループチャット等を復元・開示できませんか?(ChatWorkヘルプ)
こうした件についてインターネットを検索すると、裁判においてChatWorkの履歴を開示する命令が出た、という事例があるそうです。
逆にいえば、こうした手段によらない限りチャットを復元することはできないといえます。ChatWorkのヘルプでもそのように書かれています。
チャットのログも業務文書の一つでは?
JIIMAが提言するように、電子メールが業務文書の一つに位置づけられるのであれば、チャットの履歴も同じように業務文書の一つに位置づけられても、とくに不思議はありません。
ところが上述したように、電子メールでさえも保存の必要性を啓蒙されている段階です。そして、チャットの履歴の保存は電子メールよりもさらに難しく、失われやすい状況にあるといえます。
なお、ここでいうチャットソフトとは、上述したチャットワークのほかにも、一般に広く使われているLINEや、携帯電話番号によるSMSも含むものと考えてよいでしょう。
税務で問題になる場合とは?
そんな履歴の保存が難しいチャットソフトで、税務上の問題となりえる事例は、どのようなものでしょうか。
想定できる事例としては、例えばLINEで、請求書に類するメッセージが直接送られてきた場合が当てはまるでしょう。
前提として、これ以外の「請求書」などは発行されていないものとします。
メッセージに宛先(○○御中)や日付がないので、一見して請求書には見えないのですが、チャットのログでは、宛先名や日時も含んでいるのが通常です。
この点を考えると、このメッセージが「請求書」としての電子文書に該当する可能性はある、といえそうです。
それでも違和感がある人は、このメッセージが電子メールで、項目が箇条書きになって送られてきたことを考えてみてください。
電子帳簿保存法における保存要件
ここで、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答」を見てみましょう。
4 電子取引には、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)が該当するとのことですが、全ての電子メールを保存しなければなりませんか。
【回答】
この取引情報とは、取引に関して受領し、又は交付する注文書、領収書等に通常記載される事項をいう(法2六)ことから、電子メールにおいて授受される情報の全てが取引情報に該当するものではありません。したがって、そのような取引情報の含まれていない電子メールを保存する必要はありません。
具体的には、電子メール本文に取引情報が記載されている場合は当該電子メールを保存する必要がありますが、電子メールの添付ファイルにより授受された取引情報(領収書等)については当該添付ファイルのみを保存しておけばよいことになります。
この点を踏まえると、取引情報が含まれるメッセージが送られてきた場合は、保存の必要性があるといえるでしょう。
まとめ
電子メールよりもチャットソフトが簡易に利用される時代に、業務文書の保存がどのようにあるべきかは、難しい問題であるといえます。
その保存の範囲は会社で考えるべきものですが、チャット履歴に「納品」「請求」「領収」などの情報が含まれる場合は、これが税務上の保存要件にあたる可能性があるといえます。
チャットログの出力や保存がどうあるべきかは、今後の課題であるといえるでしょう。
チャットソフトを提供する会社も、ログの保存にもう少し柔軟な姿勢を示してほしいようにも感じます。