電子帳簿保存法への対応の話です。自分の発行する請求書を相手方にダウンロードしてもらうときに、そのPDFのファイル名を電子帳簿保存法通達の「日付・自社名・金額」になるよう試みたのですが、なんかうまくいかなかった……という話です。
説明のポイント
- 電子帳簿保存法における電子取引、通達が示すファイル名「日付・取引先名・金額」であれば検索要件を満たせる
- しかし、自分の請求書ソフトで通達のようにPDF名を設定しようとしても、なかなか対応が難しい
電子帳簿保存法の電子取引と検索要件の例外
当ブログでしつこいくらいに言及した、電子帳簿保存法の電子取引における検索要件。
令和3年度改正における取扱通達4-12によると、検索要件を満たせる方法のひとつに「ファイル名に、規則性を有して記録項目を入力することにより電子的に検索できる状態にしておく」という対応方法が挙げられます。(下の画像の例外1(1))
具体的な対応として、電子取引Q&A問12では「日付・取引先名・金額」という記録項目を、そのままファイル名に付けることが示されています。
これにあわせて、特定のフォルダ(「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダ)に格納して保存すること、訂正削除防止の事務処理規程の備え付けと運用も必要とされています。
請求書のファイル名は送付側の自由だが
数年前のことですが、ある公認会計士の方がtwitterで発信されていたツイートで、「請求書PDFのファイル名には自社名を付与してほしい。こちらで手直しするのは負担がかかる」というものがあり、なるほどと思った記憶があります。
確かに、請求書を電子データとして整理するときにファイル名を書き換えるのは、地味ですが、手間はかかります。
筆者自身の経験でも、経費関係のPDFをダウンロードしたときに「001255.pdf」などという謎の数字が羅列されたPDFだったりすると、こちらでPDF名を変更する手間が生じ、血圧が5ほど上昇します。
相手に送る請求書のファイル名について考えてみると、自社がExcelをファイル化している場合は、その名前を任意で付けることは可能といえます。
これに比べて、PDFをクラウドからダウンロードしてもらう形式の場合は、そのクラウドソフトの設定による場合がほとんどでしょう。
請求書PDF名は通達にあわせるのが望ましいという意見
そして迎えたのが、令和3年度における電子帳簿保存法の抜本改正です。
この点、筆者が先日観た「ZEIKEN BRIDGE 2021」の配信動画において、ピー・シー・エー株式会社取締役相談役の水谷学氏が「PDFで送るときに、このファイル名(※電帳法通達)のかたちで送ることを提案申し上げたい」と述べられていました。(動画「改正電子帳簿保存法対応と電子インボイス対応を簡単に両立するには」2021年12月15日、現在は配信終了)
ここでいう「ファイル名」とは、電子帳簿保存法取扱通達による、規則的なファイル名を付与することです。
取引先がどのような方法で電子データの保存をしているかはわかりませんが、もし自社で作成しているファイル名にこだわりがないのであれば、水谷氏がおっしゃるように通達にしたがったファイル名を採用することは、相手方にとっても手間が減るので親切です。
上記のツイートの意見や、電帳法通達に基づくファイル名を考慮すれば、最低限でも自社だと認識できるファイル名につけて、さらに金額や日付があるとベストといえます。
「通達ルール」の設定はむずかしい!
さっそく、筆者が使っている「マネーフォワードクラウド請求書」で実践しましたが、これがなかなか対応が難しいです。
まず前提として、マネーフォワードクラウド請求書では、相手方がダウンロードしたPDFのファイル名は、こちらの「請求書番号」がそのまま該当します。
このことから、請求書番号を工夫する必要があります。
マネーフォワードクラウドのサポートサイトによると、請求書の採番ルールを決めておくことはできます。(参考:マネーフォワード クラウド請求書 使い方ガイド「各種帳票の採番ルールを設定する方法」)
ここで紹介されている「使用可能な採番ルール一覧」を見ると、
- 作成年、作成月、作成日
- 取引先コード
- 連番、月連番、取引先連番、取引先月連番
を採番できます。
しかし、これで充分とはいえません。
まず、「作成年月日」が気になります。請求書を作成しても、実際の発行日まで請求書の送付を保留していた場合には、番号がずれてしまいます。
請求書の送付を受けた相手方としては、請求書の作成日はとくに何の関係もない日といえますので、この点が問題といえます。
次に番号ルールの文字制限です。採番の文字を含めて20字までと決まっているのがネックです。請求書番号に自社名を入れると、
${年}${月}${日}_栗原洋介税理士事務所_
というように、「栗原洋介税理士事務所」だけで10文字を使いますので、残りの採番ルールで使える文字は、あと10文字しかありません。(文字ベースのカウントであり、漢字1文字を2バイトだから2文字とはカウントしないようです)
この点は、「栗原税理士」と短縮して対応することにしました。
最後に、請求の合計金額を採番できない点です。そもそも、請求書番号に請求金額をそのまま書くことは、通常はあまりないでしょうから、採番ルールにないのもやむをえないことでしょう。
こうしてみると、マネーフォワードクラウド請求書のなかで、電帳法の通達ルールにそったファイル名を完全に付与するのは、現状では難しいという結論です。
また、すべての請求書番号に「栗原税理士」と書いてあるのも、請求書番号っぽくなくて、なんか見栄えが微妙だなあ、という気もします(苦笑)
システム側で、請求書番号とは関係なく、電帳法通達によるファイル名を別にダウンロードできるようにしてくれるのが一番いいのでしょうが、どうでしょうか。
まとめ
電子帳簿保存法の電子取引における、通達にそったPDFの保存ルールと、実務における請求書へのファイル名の付与について考えました。
実務としては、最低限でも自社名を付与することが望ましく、理想型としては、電帳法通達にそって付与できればベストといえます。
しかし、請求書ソフトの仕様などで、制限は生じることを実感したしだいです。
ちなみに、マネーフォワードの調査(2021年)によれば、30人以下の中小企業における請求書の作成方法を調査したところ、「エクセルなどの表計算ソフト」が5割を占めていたということです。
多くの中小企業では、こうしたExcel作成でのファイル名について、設定を考えることになるのでしょう。