個人で利用できる「振替納税」が、法人ではなぜ利用できないのか。税務に関わる人であれば一度は疑問に思ったことがある「税務の不思議」ですが、その理由について税務大学校の令和5年度公開講座で説明されていましたので、ご紹介します。
振替納税とは
振替納税は、国税の納税に関する口座振替の制度です。個人だけが利用できる納税方法で、申告所得税と消費税の納税で利用できます。(参考:国税庁「G-2-1 申告所得税及び復興特別所得税、消費税及び地方消費税(個人事業者)の振替納税手続による納付」)
「振替納税はなぜ個人だけが利用できて、法人は利用できないのか?」という疑問は、税務に携わった人であれば一度は疑問を持ったことがあると思われます。
ちまたでは、「税務署の事務負担が増加するから」「法人は個人よりも税務の対応がしっかりしているから」「地方税も同時に納税するので国税だけを口座振替にする必要性が乏しいから」などともいわれていましたが、実際のところはよくわかりませんでした。
税務大学校の公開講座で説明されていた内容
この微妙な疑問について、説明されている講座がありました。
税務大学校の令和5年度公開講座のうち、「国税の納付手段の多様化とキャッシュレス納付の推進~我が国及び諸外国におけるキャッシュレスの状況を踏まえて~」において、税務大学校研究部の松田雄次教授が説明されたものです。
松田教授の説明によると、財政法・会計法上の理由とする見解があるそうです。
具体的には、3月末決算の法人の納税は5月末が期限ですが、振替納税によって6月の納付になると、国の会計における5月末までの出納整理期間を過ぎてしまい、年度を超えてしまうことで歳入の欠陥が生じるため、ということです。
追記(24/1/15)
松田教授の論文(注25)によると、この見解の出典は品川芳宣先生の『国税通則法講義 -国税手続・争訟の法理と実務問題を解説-』(日本租税研究協会、2015)とのことです。
公開講座は11月30日まで
税務大学校の公開講座は11月30日までの期間限定なので、動画を視聴したい人は急いだ方がよいでしょう。
講座では、ダイレクト納付の利用届出書のオンライン受付が法人でできない理由、コンビニ納付が30万円までの理由、クレジットカードの納税に決済手数料がかかる理由の説明など、「なぜだろう」と思っていたことが説明されており、興味深かったです。
松田教授の論文が令和6年の税大論叢に掲載されるそうなので、動画を見逃してしまった場合は、そちらでも詳しい内容を確認できるかもしれません。
ちなみに、税務大学校令和5年度公開講座の受講は、税理士の研修時間に含めることができます。
岩﨑政明教授の起業・副業にまつわる所得税法の経費の判断、酒井克彦教授のインボイス制度と電子帳簿保存法の話など、とても興味深いテーマでした。