電子帳簿保存法の電子取引における「真実性の確保の要件」のうち、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」について、その経緯を整理します。
説明のポイント
- 「真実性の確保の要件」は電子帳簿保存法の創設当時は設けられておらず、平成17年度(2005年度)改正で追加された
- 2017年のQ&A改訂で規程のサンプルが追加された
1998:創設時は「真実性の確保の要件」なし
現行では電子帳簿保存法施行規則第4条の「次に掲げる措置のいずれかを行い、」の部分で示されている4つのいずれかの要件(改ざん防止措置)が「真実性の確保の要件」とされています。
しかし、電子帳簿保存法が創設された平成10年(1998年)当時の施行規則を読むと、旧規則8条において「次に掲げる措置のいずれかを行い、」の部分は存在しません。つまり、真実性の確保の要件はありませんでした。
2005:平成17年度税制改正で電子取引の保存要件が改正
平成17年度改正により、真実性の確保の要件が追加されました。この要件のひとつに事務処理規程による方法が設けられました。(旧規則8条①二)
当時の財務省担当官の税制改正の解説を読むと、
⑴ 真実性の確保
① 取引情報の授受後遅滞なく、その電磁的記録の記録事項に電子署名を行い、かつ、その電子署名が行われている電磁的記録の記録事項にタイムスタンプを付すこと。
② その電磁的記録の記録事項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、その規程に沿った運用を行い、その電磁的記録の保存に併せてその規程の備付けを行うこと。
と書かれています。
この真実性の確保の要件が追加された理由は、太字部分(引用者が太字とした)で示したように、「適正公平な課税を確保するための環境整備」とされています。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、システム概要書や可視性の確保、日付に関する検索機能の確保を保存要件としていましたが、情報通信技術の進展やペーパーレス取引が進む中、適正公平な課税を確保するための環境整備として、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存要件が整備されました。
これにあわせて電子帳簿保存法の通達改正も行われ、旧通達10-2(現7-2)が追加されています。
事務処理規程についての趣旨解説は次のとおりです。
【解説】
規則第8条第1項第2号では、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めることとされているが、これは、当該規程によって電子取引の取引情報に係る電磁的記録の真実性を確保することを目的としたものである。
したがって真実性を確保する手段としては、保存義務者自らの規程のみによる方法のほか、取引相手先との契約による方法も考えられることから、これらの方法に応じて規程に必要な内容を例示したものである。
なお、(2)の場合における具体的な規程の例としては「電子取引の種類を問わず、電子取引を行う場合には、事前に、取引相手とデータの訂正等を行わないことに関する具体的な条項を含んだ契約を締結すること。」等の条項を含む規程が考えられる。
2014:JIIMAが解説書にて事務処理規程のサンプルを提示
ソフトウェア会社の担当者で構成された研究グループにより、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)法務委員会から「電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説 電子取引データの保存の考え方」第1版(2014年9月作成)が発表されました。
この解説の末尾に「訂正及び削除の防止に関する事務処理規程(例)」がサンプルとして掲載されています。
なお、断り書きとして「本例示は本解説書作成のためにJIIMAが独自に作成した私案であり、国税当局の確認を得たものではありません」と書かれています。
この解説書は2016年10月に第2版に改訂されており、現在もJIIMAのホームページで第2版を読むことができます。
参考:「電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説 電子取引データの保存の考え方」第2版
2017:国税庁Q&Aに事務処理規程のサンプルが追加
平成29年(2017年)7月、国税庁の電子帳簿保存法Q&Aが改訂され、これまで一つのQ&Aだったものが、「電子帳簿・電子書類・電子取引」と「スキャナ保存」の2つに分離されました。
あわせて電子取引に関するQ&Aとして、事務処理規程に関するQ&Aが1問追加されました。(2017年7月改訂Q&A電子問58)
問 58 電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に当たり、規則第8条第1項第2号に規定する「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を定めて運用する措置を行うことを考えていますが、具体的にどのような規程を整備すればよいのでしょうか。
国税庁Q&Aにて事務処理規程のサンプルが掲載されたのは、この時点です。このサンプルを読むと、2014年にJIIMAが作成した事務処理規程のサンプルを参考にしている様子がうかがえます。
JIIMAのサンプルでは「取引データの保存(期間)」「対象となるデータ」という、通達が求めていない項目が見られますが、国税庁のサンプルでも同じ項目が書かれています。
2021:一問一答に個人事業主向けのサンプルが追加
国税庁Q&Aの令和3年(2021年)7月の改訂により、事務処理規程のサンプルに個人事業主向けが用意されました。(2021年7月改訂Q&A電子問24)
サンプルの特徴として、法人向けのサンプルが大幅に簡素化されており、通達で求められている内容を最低限満たしたものとなっています。
まとめ
電子帳簿保存法の電子取引について、真実性の確保の要件における訂正及び削除の防止に関する事務処理規程について、どのような経緯を経ているのかを確認するために資料を整理しました。
以前にも当ブログで指摘していますが、事務処理規程のサンプルが国税庁Q&Aで追加されたのは、2014年のJIIMAの解説書による影響が大きいと思われます。
事務処理規程に関する要件については、平成17年以降、とくに変更されていないこともわかるでしょう。
2017年7月改訂のQ&Aを見ればわかりますが、この時点においても電子取引のQ&Aは4問しかありません。ここでQ&Aが2つに分離したのは、当時の改正で注目されていたスキャナ保存の影響です。
いまは誰もが語る「電子取引」ですが、この2017年当時の問数の少なさを見れば、まったく注目されていなかったことがわかります。ここからわずか数年のあいだに、電子取引をとりまく環境がめまぐるしく変わっています。