クラウド会計ソフトなどを提供するfreeeは、2017年1月初旬に「クラウド申告freee」のリリースを発表しました。このリリース予告の意味について解説します。
説明のポイント
- 「クラウド申告freee」は、個人事業主や法人にとって、会計freeeから申告までの一気通貫が可能になる
- これまでの税務ソフトと比較した目新しい機能は、クラウド上でデータ共有できるという点にとどまる
freeeのリリース予告とは
freeeは、2017年1月初旬において、税務申告に対応する「クラウド申告freee」をリリースすることを発表しました。
freeeは、税務申告の分野を「多大な労力やコストがかかる業務」としつつ、「煩雑な業務にも関わらず、申告市場は参入障壁の高いクローズドな市場」としています。
この「クラウド申告freee」は、会計業務から申告業務までの一気通貫によって、スモールビジネスにおける効率化を図るものとして位置づけられています。
リリースの2ヶ月前に予告を行った点は、freeeの「クラウド申告freee」に対する意気込みを感じさせます。
参照:freee が3つの電子申告に対応した新サービス「クラウド申告 freee」を発表。日本初、会計から申告までの業務をクラウドで完結させるサービスの提供を開始(freee、2016年10月31日)
具体的にどんなサービスが提供されるのか?
▲freeeのリリース資料より引用
「クラウド申告freee」で提供が予定されるサービスは、次のとおりです。
- 個人の申告(確定申告)の電子申告対応
- 法人の申告における、帳票の作成と電子申告対応
- 年末調整で作成した書類の電子申告対応
- 償却資産申告の電子申告対応
これらを見てわかるとおり、機能の強化としては、電子申告と法人の申告への対応がメインです。
しかし、これらの機能は、会計ソフトと税務ソフトを統合して提供している大手ソフトメーカーでは、すでに実現している機能です。唯一目新しいのは、完全クラウドによるデータ共有という点です。
サービス提供による機能強化の意味
freeeは、法人税の申告を除き、各種の税務申告書類の作成については、紙ベースでの対応にとどまっていました。これは、会計freeeが、電子申告の機能を備えていないからです。
「クラウド申告freee」の利用によって、どのように機能が強化されるのかを、これまでの弱点と比較しながら解説します。
1.個人の申告(確定申告)の電子申告対応
従来の個人の申告において、freeeが対応するのは、決算書の作成まででした。そして、決算書が完成した後は、
- 決算書を紙で印刷して郵送する
- 決算書をe-tax対応データ(xtxファイル)として出力し、国税庁の提供する「e-taxソフト」に組み込んで電子申告する
の2通りの対応を促していました。
しかし、どれだけクラウド会計で効率化を実現しても、終着点である申告では、紙ベースの印刷・郵送になってしまいます。
また、唯一の電子申告の手段である「e-taxソフト」は、国税庁が提供するフリーソフトですが、非常に不親切なつくりで知られています。会計初心者にアピールしているfreeeにとって、e-taxソフトの利用を促すことは、苦々しい思いがあったものと想像できます。
それが、会計freeeから「クラウド申告freee」への連携を促すことで、連携の悪かった問題を解決することができます。電子申告も可能になり、紙の印刷は不要になります。
なお、freeeの確定申告とe-taxとの連携の問題点については、当ブログの以前の記事で指摘しています。
参考:freeeで出力したxtxデータは、「確定申告書等作成コーナー」では読み込めない(当サイト、2016年2月1日)
2.法人の申告における、帳票の作成と電子申告対応
会計freeeでは、法人が必要な申告に対応する機能は、ほとんど持っていませんでした。作成できるのは、決算書、勘定科目内訳明細書、消費税申告書に限られます。
このためfreeeは、決算終了後の法人税の申告について、
- 申告を税理士に依頼する
- 他の税務ソフトへ連携する
- 手動で転記する
による対応を促してきました。(下の画像を参照)
▲【法人】法人税の確定申告を行う(freeeヘルプセンター)より引用
しかし、「クラウド申告freee」がリリースされれば、この対応は変化します。
「クラウド申告freee」では、法人税の申告に必要な帳票を網羅し、「業界最多クラス」としています。このことから、法人の申告は、会計freeeから「クラウド申告freee」の連携によって完結できると見込まれます。
3.年末調整で作成した書類の電子申告対応
freeeでは、クラウド型の給与計算ソフト「給与計算freee」も提供しています。
「給与計算freee」では、給与計算から年末調整まで対応しているものの、年末調整の申告業務のすべてについて、印刷・郵送など紙ベースの対応を促していました。(下の画像参照)
▲給与計算freeeの年末調整について(freeeヘルプセンター)より引用
「クラウド申告freee」の予告では、
「クラウド会計ソフト freee」で作成した 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書データを年末調整と連携し、一緒に電子申告することができます。
という記述が見られます。
このことから、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の作成・電子申告(e-tax)に対応すると見られます。
従業員への給与支払結果について市区町村に送付する「給与支払報告書」に関しては、電子申告(eLTAX)に対応するかどうかのハッキリした記述が見られません。
しかし、法人の申告や償却資産申告では、eLTAXによる電子申告が必要であるため、「給与支払報告書」についても同様にeLTAXに対応することが期待されます。
なお、当サイトでは以前に、多くの給与計算ソフトが電子申告に非対応で、「給与支払報告書」を印刷・送付する事務負担の問題点について言及しています。
参考:多くの給与計算ソフトは、給与支払報告書のデータ送信に非対応という悩み(当サイト、2016年5月25日)
4.償却資産申告の電子申告対応
償却資産の申告が必要な事業者では、これまでの紙ベースの申告に代えて、「クラウド申告freee」を利用した電子申告(eLTAX)が可能になると考えられます。
気になる点は何か?
freeeの発表では、「クラウド申告freee」によって申告業務の「民主化」を目指すとしています。
「民主化」という用語をどのような意味で用いているのかは不明ですが、これまで会計事務所だけで用いられていた税務申告ソフトを、一般の事業者でも入手しやすくするという意味とも推測されます。
また、以下に引用のとおり、価格については現在未発表ですが、低コストを予告しています。
⾼いコストがかかりがちな申告ソフトの利⽤障壁を下げられるよう、従来製品と⽐較しても低コストとなる価格での提供を予定しています。
しかし、疑問点も浮かびます。
1.どのような形で提供されるのか?
「クラウド申告freee」がどのようなパッケージで提供されるのか、ハッキリしない点があります。
すべての機能を包含したパッケージである場合、個人事業主にとっては、法人の申告機能は不要です。このため、「クラウド法人申告」の機能は、別売りになる可能性も考えられます。
一方で、会計事務所が「クラウド申告freee」を購入し、これを事業者と共有する方法も考えられます。しかしこれでは、「民主化」という表現には違和感が生じます。
2.年1回の申告対応のため、事業者が利用する意味はあるか?
会計事務所が税務ソフトを購入する理由は、依頼された多数の代理申告のために税務ソフトを活用し、効率化を図るメリットがあるからです。つまり、1本の税務ソフトによって、スケールメリットが得られるわけです。
しかし、事業者が税務ソフトを購入する場合は意味が異なります。
事業者が年1回の申告のために税務ソフトを購入することは、従来、会計事務所へ作成を依頼していた場合に比較してメリットがあるか? という疑問がうかびます。
会計事務所に依頼していない事業者の場合はメリットがありそうです。しかし、そのメリットは「クラウド申告freee」の価格が問題になります。また、会計事務所に頼らない自力申告が、どれほど楽になるかという補助機能にも注目が集まります。
3.所得税の申告書作成機能は強化されるのか?
「会計freee」は会計ソフトであって、税務ソフトではありません。このため、個人事業主が所得税の確定申告を行う場合、freeeで確定申告書を作っても、物足りない場合がありました。
例えば、株式等の譲渡所得を申告したいと思っても、会計freeeの作る確定申告書では対応できませんでした。
一方、「クラウド申告freee」において、所得税の確定申告書の作成について機能が向上するというアナウンスは、現在のところされていません。
会計freeeにおける所得税の確定申告書の作成機能が向上しなければ、「クラウド申告freee」で電子申告に対応しようとも、意味が乏しい結果になります。
まとめ
freeeがリリースを予告した「クラウド申告freee」について、その意味の理解の仕方と疑問点について説明しました。
このクラウド申告が新しい時代を切り開くのかは、まだわかりません。
法人税の申告では、必要そうな別表を提案してくれる興味深い機能もありますが、これまでの税務ソフトに比べて決定的に新しい機能は、「クラウド上でデータを共有できる」という点にとどまります。
もちろん、すでにfreeeの各種機能を活用し、連携が進んでいる事業者と会計事務所においては、業務効率を改善できる点で朗報といえるでしょう。