インボイス登録で「免税→課税」に移行 原則計算は棚卸資産の調整あり

インボイス登録をきっかけにして免税事業者から課税事業者に移行した場合の留意点です。免税事業者から課税事業者に移行した場合には「棚卸資産の調整」があるわけですが、これはインボイス登録を機とした移行でも、同じ扱いとされています。

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インボイス登録による「免税→課税」の移行後はおおむね2割特例の想定だが

これまで免税事業者だった場合で、インボイス制度の開始をきっかけにして課税事業者に移行すると、消費税の申告が必要なのは当然です。

このような場合において使える制度が、「2割特例」です。2割特例はこれまで免税だった事業者に配慮した期間限定の制度なので、かなり有利です。ほとんどの場合では、この2割特例を利用することが想定されているでしょう。

ただし、すべての納税者において2割特例が有利かというと、必ずしもそうではありません。

国税庁ホームページ「2割特例 特設ページ (個人事業者向け)」の解説を読むと、次の説明が見られます。

Q5 適用できる人は、誰しも2割特例を適用したほうが有利なのでしょうか?
A  例えば、卸売業を営んでいる方は、簡易課税制度を適用したほうが、90%のみなし仕入率が適用されますので、消費税の納付金額が少なくなると考えられます。
また、多額の設備投資などがあり、課税仕入れに係る消費税額が、課税売上げに係る消費税額を上回る場合、一般課税で申告すれば還付税額が生じることになりますが、2割特例を適用すると、通常、還付税額は生じないことになりますので、そうしたことを踏まえて適用をご判断ください。

2割特例の対象であっても、一般課税(本則課税)による原則計算や簡易課税と比較しての有利不利の判定は、やはり必要になると思われます。

棚卸資産の調整ができるが……

ここで気になるのが、棚卸資産の調整です。免税事業者が課税事業者に移行した場合は、棚卸資産の調整措置の制度があります。

これは、インボイスの登録を機会に課税事業者に移行した場合でも適用があります。

消費税法施行令 平成30年改正令附則

第17条 納税義務の免除を受けないこととなった場合の棚卸資産に係る消費税額の調整に関する経過措置

消費税法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者が、28年改正法附則第44条第4項の規定により消費税法第9条第1項本文の規定の適用を受けないこととなった場合において、登録開始日(28年改正法附則第44条第3項に規定する登録開始日をいう。次条において同じ。)の前日において消費税を納める義務が免除されていた期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産(消費税法第2条第1項第15号に規定する棚卸資産をいう。以下この条において同じ。)又は当該期間における保税地域(消費税法第2条第1項第2号に規定する保税地域をいう。)からの引取りに係る課税貨物(消費税法第2条第1項第11号に規定する課税貨物をいう。)で棚卸資産に該当するもの(これらの棚卸資産を原材料として製作され、又は建設された棚卸資産を含む。)を有しているときは、消費税法第36条第1項及び第2項の規定を準用する。この場合において、同条第1項中「又は第12条第5項」とあるのは、「 、第12条第5項又は所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則第44条第4項」と読み替えるものとする。

免税期間中に仕入れた棚卸資産について、課税事業者への移行時に調整があるわけですが、これはインボイス登録を機会として課税事業者へ移行した場合でも、同じということです。

この取扱いですが、内容として触れられているのを目にしたことは、意外にも少なかったように思われます。2割特例が創設されたことも理由としてあるかもしれません。

国税庁のQ&Aを探したところでは、問8の「参考」の部分で、棚卸資産の調整について触れられていました。

(参考) 令和5年 10 月1日から登録を受けることとなった場合において、登録日の前日である令和5年9月 30 日に、免税事業者であった期間中に国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産や保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものを有しているときは、当該棚卸資産又は課税貨物に係る消費税額について仕入税額控除の適用を受けることができます(改正令附則 17)。

このほか、東京国税局の「誤りやすい事例集」(令和5年12月)でも、次の内容が見られます。

【補足説明】(中略)なお、免税事業者が令和5年10月1日に適格請求書発行事業者の登録を受けた場合、登録日である令和5年10月1日以降から課税事業者となるが、この場合も登録日の前日(9月30日)に有している棚卸資産に係る消費税額について、令和5年の課税期間における課税仕入れ等の税額に加算することとなる(平成30年改正令附則17、消法36①)

消費税に詳しい人ならば、「免税→課税」への移行にあたっては、棚卸資産の調整がありそうなことは、インボイス登録を契機とした移行であっても、なんとなく思い浮かびそうなものです。

一方、税務に詳しくない納税者では、この棚卸資産の調整があることまでふまえて、本則課税と2割特例の比較ができるかというと、なかなか難しいのではと思われます。

例えば、課税事業者への移行時に在庫を多く抱えており、移行後に売上が思わしくなかった場合では、棚卸資産の調整の影響によって、原則計算のほうが有利になる可能性もあります。

後日の修正で計算方法の選び直しはできない(参考国税庁「2割特例用 消費税及び地方消費税の確定申告の手引き」P.1)とされているので、慎重な判断が必要と思われます。

余談ですが、令和4年度改正で経過措置期間における棚卸資産の調整の扱いが変更されています。国税庁パンフレット「経過措置期間における棚卸資産に係る消費税額の調整規定の見直し」を参照。詳細は「税務通信」3692号の解説がわかりやすいです。

まとめ

インボイス登録を機会とした課税事業者への移行と、棚卸資産の調整について述べました。

免税事業者から課税事業者への移行では、棚卸資産の調整措置があるが、これはインボイス登録を契機としたものであっても同様である、ということです。

この内容は、筆者と親しい税理士の先生から教えていただいた話が元ネタで、これをベースに筆者が整理したものです。(ブログで整理して書くことも承諾済み)

教えていただいた話はもう少し続きがあるのですが、今回は前編として、次回に後編を書きます。

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