紙で交付されるのが当たり前となっている源泉徴収票。なぜ、XML形式の源泉徴収票は活用されないのか? その問題点を考えます。
(追記:この問題は2024年に解決されました。記事の末尾に追記した説明があります)
説明のポイント
- 電子署名のないXML形式の源泉徴収票を、入力用として活用することを提案している
紙の源泉徴収票からの「手打ち」という非効率
給与所得のある人がパソコンで確定申告書を作成する場合、どんな作業をするでしょうか?
おそらく、こんな感じでしょう。
- 会社から交付された、紙の給与の源泉徴収票を手もとに用意する
- その数字を見て、その数字をパソコンに打ち直す
この処理、よく考えてみると非常にムダな話です。
なぜなら、会社のパソコンで処理された給与データが、紙の源泉徴収票で交付されて、それを確定申告するときにパソコンにまた入力する、という不思議な手間が生じているからです。
下の画面は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」の入力画面です。みなさん、この画面で入力していることでしょう。
しかし、そんな手入力の作業であっても、この問題点を指摘したものを、筆者は見たことがありません。税務関係者の関心も薄いのでしょうか。
確定申告をする手順
おさらいとして、給与所得のある人の確定申告を考えます。
確定申告の手段としては、(1)電子申告と、(2)紙の申告書を提出する2通りがあります。
給与所得の申告をする場合、通常は源泉徴収票の添付が必要です。
- 紙の申告書を提出する ……紙の源泉徴収票を添付して提出する
- 電子申告 ……紙の源泉徴収票は添付省略(手もとに保管)
ただし、XML形式の源泉徴収票を持っている場合は、そのXML形式の源泉徴収票を電子申告で添付することができるため、紙の源泉徴収票は不要です。
XML形式の源泉徴収票なんてあるの?
「XML形式の源泉徴収票」と聞いて、違和感のある人は多いでしょう。紙が当たり前の源泉徴収票に、それ以外の形式などあり得るのでしょうか。
実はこの「源泉徴収票」は、別に紙じゃなくてもいいのです。(ただし、従業員の同意が条件)
これは、電子交付が広まっていることでもわかるでしょう。
クラウドに給与データを保管し、従業員がデータにアクセスできるようにするしくみが、効率化の観点からじわじわと広がっています。
給与明細だけでなく、源泉徴収票についても同じしくみで、電子交付が広がっているのです。
ちなみに、この電子交付された源泉徴収票は、自分でプリントしても、確定申告では使うことができないという問題点があります。この点は、以前の記事で指摘しました。
XML形式の源泉徴収票が広まらない理由は?
ようやく本題です。
最終的な確定申告の作業を考えると、データをそのまま利用できるXML形式の源泉徴収票の活用が望ましいでしょう。
では、その問題点となっているものは何でしょうか?
1.確定申告で添付するには電子署名のあるXMLが必要
電子交付に対応している給与ソフトであれば、XML形式の源泉徴収票を発行することは、とくに難しくない対応と考えられるでしょう。
しかし、問題があります。それは、源泉徴収票の改ざんを防ぐために、XMLに電子署名を付すことが求められている、ということです。
電子交付する給与所得の源泉徴収票、退職所得の源泉徴収票又は公的年金等の源泉徴収票のうち、国税庁が定める一定のデータ形式で作成し、かつ、給与等、退職手当等又は公的年金等の支払者(交付者)の電子署名を付したものは、受給者(交付を受ける者)が国税電子申告・納税システム(e-Tax)により確定申告を行う際、その添付書類としてオンライン送信が可能となります。
出典:給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A(国税庁)問14 太字は筆者
この電子署名というハードルの高さが、利用をさまたげている主因といえます。
現行では、国税庁の公式ソフトを使って、電子署名を付したXML形式の源泉徴収票をつくることはできます。しかし、そんなことをしている事業者はいないでしょう。
電子署名を付したXML形式の源泉徴収票のつくりかたは、以前の記事で解説しました。(使う事業者はいないでしょうが)
2.申告ソフトも対応していない
もっとひどい話もあります。
実は、電子署名を付与されたXML形式の源泉徴収票を会社から受け取っても、それを活用する手段はとぼしいのです。
国税庁の提供する確定申告書等作成コーナーでは、「XML形式の源泉徴収票」は、給与所得の入力には使えません。
「入力に使えない」という、パッと聞いても信じられない話ですが、これは本当です。単に申告時に添付することしかできないのです。
下の画像は、XMLを添付する画面です。申告直前でXMLの添付を要求してきます。(つまり、入力時に活用できない)
このことから、現行のしくみでは、給与所得の源泉徴収票は、手入力するしかありません。
また、制度がどんどんと複雑化して、源泉徴収票のサイズも大きくなるなど、理解が難しいものになっています。
源泉徴収票を手入力を要求するなど、不効率の極みといわざるをえません。
XML形式の源泉徴収票が広まるにはどうしたらいいのか?
データ形式の源泉徴収票を広めるには、上記の問題点を解決する必要があるでしょう。
筆者からの改善案を挙げてみます。
1.電子署名にこだわる必要はあるのか?
XML形式の源泉徴収票に電子署名を付すことが求められるのは、それが「原本」としての扱いになるからです。
つまり、「原本」への改ざんを恐れるから、電子署名が必要なわけです。
では、このような対応はどうでしょうか?
- 「原本」は紙の源泉徴収票のままでよい
- XML形式の源泉徴収票は、電子署名を付さないものを活用し、単に入力用として交付する
- XMLに改ざんがあるかどうかは、紙の源泉徴収票と対比させればよい
これなら、申告書の入力の手間も省けます。
「XML形式の源泉徴収票=電子署名が付与されているべき」という固定観念が、問題の支障になっているように感じます。
電子署名にこだわる必要はなく、単にXML形式の源泉徴収票データを、入力用として利用させればいいわけです。
そして原本は紙なのだから、XMLに改ざんがあっても、紙と対比させれば検知は可能です。
2.「確定申告書等作成コーナー」での対応を
上記1に対応するためには、当然ですが、国税庁の確定申告書等作成コーナーにおいても、XMLのインポートに対応すべきでしょう。
先ほども述べたとおり、現行の「確定申告書等作成コーナー」では、源泉徴収票は手入力による転記しかできません。
手作業を要求するのではなく、ソフトメーカーと歩調を合わせて、XMLのエクスポート・インポートを考えてほしいものです。
まとめ
毎年毎年、専門家として抱き続けている疑問。「給与所得の源泉徴収票は、なぜ手入力で転記しているのか……?」
そんな疑問から、改善案を提案しました。
「紙」の源泉徴収票が広く活用されている以上は、「紙」を原本としつつ、入力用のXMLを利用させれば、効率化が図れるのではないかと考えます。
源泉徴収票が手入力になっているのは、「手入力だとしても、大きな負担ではない」と考える関係者が多かったこともあるのでしょう。
しかし、負担を考えれば、XMLのエクスポート・インポートを可能にすることは、メリットのある改良のように考えます。
追記(2024/1/27)
2018年にこの記事で指摘した問題は、マイナポータルにある源泉徴収票のデータを取り込んで転記するという対応により、2024年に解決されました。
令和6年2月から、給与所得の源泉徴収票情報(令和5年分以後の年分に限ります。)がマイナポータル連携の対象となります。
引用:国税庁「マイナポータルと連携した所得税確定申告手続」