2020年10月から提供される「年末調整ソフト」についての研究記事です。プロトタイプ版の年末調整ソフトをテストしてみると、「書面印刷」で作成した扶養控除等申告書には、押印欄が存在しない点をお伝えします。
説明のポイント
- プロトタイプ版「年末調整ソフト」から書面印刷した扶養控除等申告書には、押印欄が見当たらない
- 現行の法令では押印は必要。氏名の右側などに押印しておく
「年末調整ソフト」作成書面に「印」欄はない
タイトルで記事の結論を述べてしまっているのですが、プロトタイプ版「年末調整ソフト」で作成した扶養控除等申告書など各種の年末調整書類を見ると、あのおなじみの「印」欄が用意されていないことに気づきます。
プロトタイプ版ver0.5(2020年3月提供)と、その後アップデートしたver0.7(2020年6月提供)でも、押印欄は存在しないままです。
念のための確認ですが、国税庁の標準様式では、「印」欄は名前の右側に用意されています。(令和2年分)
令和3年分の予定レイアウトでも、当然ですが押印欄は用意されています。
押印が必要な根拠とは
扶養控除等申告書に押印が必要なのは、この書類が税務書類だからです。
国税通則法124条2項では、税務書類には当該税務書類を提出する者が押印しなければならない、とされています。
つまり、扶養控除等申告書などの年末調整の書類には、従業員が自分で押印して、会社に提出する必要があります。
やっぱり押印は必要?
「年末調整ソフトはデータ提出を念頭に置いたソフトだから、もしかして書面印刷による提出の場合、押印は不要なのでは?」
という淡い期待もあるところです。
しかし、2020年6月下旬に国税庁ホームページで公開されたパンフレットを読む限りですと、この考えは期待外れかもしれません。
パンフレットの該当部分を引用してみます。
出典:年末調整手続の電子化に関するパンフレット~スケジュール編~(国税庁)
パンフレットを見ると、「データ提出なら押印が不要」というメリットが挙げられています。
では、もう一方の「書面印刷による提出」はどうなのか? この点については何も触れられていません。
また、国税庁FAQの問5-24でも、下に転載のとおり、標準レイアウトとの違いによる記載事項の要件は書かれていますが、押印についての言及はありません。
年末調整申告書は法定記載項目の記載があれば法令の要件を満たすことから、年調ソフトで作成する年末調整申告書(書面)には、法定記載項目のみを出力することとしています。
データ提出で押印が不要な理由
年末調整ソフトでは「データ提出」と「書面印刷による提出」の2とおりが用意されていることは、このブログの過去記事で触れました。
データ提出で押印が不要になる理由は、電子署名等の本人証明によるやりとりが必要とされているためです。
その方法は税務署の事前承認も必要とされており、要件が満たされていない場合は、承認取消しの可能性もありえます。
こう考えると、押印による本人確認を、データ提出では電子署名等で代替していると理解すべきでしょう。(参考「年末調整手続の電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」問2-14)
押印を忘れそうになる?
話が脱線したので、元に戻します。
さきほど述べたように、プロトタイプ版「年末調整ソフト」で書面印刷した扶養控除等申告書などに、押印欄は用意されていません。
書面の右上に(扶)マークが入っていることを考えると、技術上は(印)マークも表示可能に思われますが、なぜ用意されていないのかは不明です。
そうなると、不安なのは「押印忘れ」でしょう。
押印欄がなければ「もしかして、押印しなくていい?」と考えてもおかしくのない話です。
しかし、国税通則法の要件を考えれば、年末調整ソフトで書面印刷した扶養控除等申告書でも、従業員の押印は必要といえます。
年末調整ソフトの利用を考える会社は、従来どおり、押印についても配慮が必要といえそうです。
まとめ
プロトタイプ版「年末調整ソフト」で印刷した書面には、押印欄が存在しないことをお伝えしました。
法令上、押印は必要とされていますので、扶養控除等申告書などを書面印刷で提出をする場合でも、氏名の右側などに押印しておくべきでしょう。
ところで、先日の政府の規制改革推進会議にて、押印原則の見直し削減を求める要望がなされています。
この動きを受けて、扶養控除等申告書などの年末調整書類も、押印が簡便化される可能性もあります。
しかし、その改正がいつになるかはわかりません。現時点では、今年の年末調整ソフトにおける書面印刷は、押印が必要と考えるのが無難でしょう。