電帳法「電子取引」の検索要件【4】なぜ検索要件は改正されたか?

電子帳簿保存法における検索要件が、令和3年度税制改正で「簡素化」されます。その内容については、前回の記事で説明しました。

電子帳簿保存法における電子取引は、税務署への申請に関係なく、すべての法人・個人事業主に関係するもので...

今回(4回目)は、令和3年度税制改正で電子取引における検索要件はなぜ変わったのか? その理由を考察します。

説明のポイント

  • 法人税、所得税では電子取引における紙保存の廃止が改正の理由
  • 消費税の「電子インボイス」にも影響?
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1.紙保存廃止の「見合い」で検索要件を緩和?

前回の記事でご紹介したとおり、令和3年度税制改正では、電子取引における「検索要件の簡素化」が実施されます。

検索対象は「日付・金額・取引先」に限定され、組み合わせ検索、範囲検索は実質的に不要となります。また、売上1,000万円以下の事業者は検索要件は不要とされます。

この改正の理由を考えると、真っ先に思い浮かぶのは、電子取引の紙保存が廃止とされる改正も同時に実施されるためでしょう。

これまで紙保存で要件を回避していた事業者の事務負担を考えれば、電子保存を強制する「見合い」として、「要件の簡素化」もあわせて実施したと想像されます。

2.電子インボイスに影響するため?

2023年10月以後の消費税は、電子帳簿保存法とも大きく関係します。インボイス制度における電子インボイスは、電子帳簿保存法の電子取引に該当するためです。

所得税と法人税では、電帳法10条(改正後7条)で電子取引の保存義務が示されています。

しかし消費税では、現在(2021年)において電子取引にかかる領収書等(電子インボイス)の保存は求められていません。

現時点の電子帳簿保存法Q&A「電子取引」問3を読んでみましょう。

ヘ 現行、消費税の仕入税額控除の適用に当たっては、必要な事項が記載された帳簿及び請求書等(書面)の保存が必要ですが、取引金額が3万円未満の場合や、3万円以上でも「電子取引」のようにデータのみが提供されるなど、書面での請求書等の交付を受けなかったことにやむを得ない理由がある場合には、帳簿のみを保存することにより仕入税額控除の適用を受けることができます。

太字で示したとおり、現行の仕入税額控除では、電子取引の領収書等については「やむを得ない事情」に該当し保存は求められず、帳簿のみの保存でよいとされています。

しかし、2023年10月以後のインボイス制度では、電子取引により生じた領収書等(電子インボイス)は消費税でも仕入税額控除を受けるために保存が必要とされます。

先ほどの電子帳簿保存法Q&A「電子取引」問3の続きを引用します。

なお、令和5年10月以降は、帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受けることができるのは、法令に規定された取引に限られることとなります。したがって、「電子取引」を行った場合に仕入税額控除の適用を受けるためには、軽減税率の対象品目である旨や税率ごとに合計した対価の額など適格請求書等として必要な事項を満たすデータ(電子インボイス)の保存が必要となります。

つまり、2023年10月以後の仕入税額控除では、要件を満たしたうえでの電子インボイスの保存が必要です。

また、インボイスの登録義務者が電子インボイスを発行した場合も、保存義務が生じます。実質的に、売り手と買い手の双方で、電子インボイスの保存が必要ということです。

電子インボイスも紙保存不可になる?

現在の電子インボイスQ&A問67には、電子インボイスは紙に出力して保存できるとされています。

他方、提供を受けた適格請求書に係る電磁的記録を紙に印刷して保存しようとするときは、整然とした形式及び明瞭な状態で出力する必要があります(新消規15の5②)。

これは、令和5年10月施行の新施行規則に「当該電磁的記録を出力することにより作成した書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力したものに限る。)を保存する方法によることができる」と書かれているためです。

この点について、令和3年度税制改正は、どのように影響するのでしょうか?

税制改正大綱を読んでも、電子インボイスの紙保存について言及はありません。

これはあくまで想像ですが、所得税と法人税で電子取引の紙保存を廃止しておきながら、消費税の電子インボイスでは紙保存を認めるのも、どこか違和感があります。

そうなると、消費税でも対応を一致させて、電子インボイス(仕入税額控除)の紙保存は不可になるのではないでしょうか。

もし消費税法施行規則が変更され、紙保存が不可になれば、電子取引で生じた領収書等(電子インボイス)は、消費税においても電子保存するしかありません。

紙保存もできず、検索要件のハードルも高ければ、電子インボイスをきちんと保存できない事業者が続出する恐れもあるでしょう。

(追記)この考察について、消費税のインボイスは独自の扱いが存続しています。その理由は別の記事で書きました。
電子取引に係る電子データは、電子データのまま保存が必要です。これは2022年からの話です。しかし、消...

売上1000万円要件をどう見るか?

判定期間(前々期)の売上高が1,000万円以下の事業者は、電子取引の検索要件が不要とされます。

この点を見ると、「検索要件の簡素化」は、消費税のインボイス制度を意識しているように感じられます。

売上が1,000万円以下の事業者は、そのほとんどが免税事業者です。しかし、2023年10月以後は、インボイス制度のために課税事業者に移行せざるを得ないことも多くなります。

インボイスは、売り手で保存義務があり、買い手も仕入税額控除のために保存が必要です。これは電子インボイスでも同様で、とくに買い手では仕入税額控除のために電子取引としての要件を満たす必要があります。

課税事業者になれば事務負担も当然に増えますので、「過剰な事務負担が生じかねない」という批判を前もって避けるための措置が、この「検索要件不要」の制度と考えられます。

まとめ

令和3年度税制改正で電子帳簿保存法の電子取引において「検索要件の簡素化」が行われた理由を考察しています。

同時に行われた改正で、紙保存が廃止とされたために、「検索要件の簡素化」が必要になったのではないかと推測します。

この点、電子インボイスにも影響があるのではと考え、推測として記事を書きました。

検索要件の「簡素化」については、電子インボイスの他にも理由がありそうなので、次回以降も続きを書きたいと考えています。

令和3年度税制改正で電子取引における検索要件はなぜ変わったのか? その理由を考察しています。 ...

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