2020年から始まった「法人設立ワンストップサービス」ですが、サービスがあることは耳にしても、その利用された内容を目にする機会はかなり少ないはずです。
ワンストップサービスを使った場合に、その後の税務の処理がどのようになっているのか、実務メモとして整理します。
説明のポイント
- 法人設立ワンストップサービスを利用した場合、e-Taxは利用IDが発行されるが、eLTAXは発行されない。e-TaxのIDが発行されるのも即時ではない。
ワンストップサービスの利用件数は微妙?
2020年における法人設立ワンストップサービスの利用件数は、法人設立数のおよそ1%程度と発表されています。(参考:Youtube「定例記者会見_法人設立ワンストップ_20210226」)
法人を設立し、その設立者がマイナンバーカードとICカードリーダーを持っており、なおかつワンストップサービスを使うという条件であるため、利用数が少ないのもやむを得ないところでしょう。
また、ワンストップサービスの内部における専門用語が難しいため、手続きをあきらめてしまう人もいるのではと考えられています。(参考:中尾健一「法人設立ワンストップサービス すべての手続きに対象拡大」)
こうした状況であるためか、実際にこのサービスを利用した場合における税務の処理がどうなっているのか、その情報を税務の現場で目にすることも少ないです。
公式サイトには税務を担当する人がほしい情報も、あまり詳しくは載っていません。そこで、税務目線で「法人設立ワンストップサービス」の処理についてメモしておきます。
国税(e-Tax)
法人設立ワンストップサービスは、その名前のとおり一括して各機関に届出・申請が行われます。そのうち国税に関する届出は、所轄の税務署に届きます。
届出についてはとくに問題なく行われているのですが、微妙に気になるのがe-Taxの利用開始届です。
この利用開始の扱いは、税務署の管轄ではないため、その処理がどうなっているのか疑問に感じるところです。
この点ですが、e-Taxの利用者識別番号が発行されるのは、e-Taxへ届け出た全ての手続が完了した時点です。発行されると、お知らせの通知が届くということです。つまり、利用者識別番号の発行には時間がかかります。
もし直接、e-Taxに利用開始届を提出をした場合は、即時に利用者識別番号の通知が行われます。これに比べ、法人設立ワンストップサービスを利用した場合は、即時の通知ではないことに留意が必要です。
地方税(eLTAX)
上記のとおり、e-Tax(国税)の利用開始はワンストップサービスの届出と同時に自動で行われます。これに比べて異なっているのがeLTAX(地方税)です。
eLTAXについては、ワンストップサービスで設立届を申請しても、利用IDは発行されないようです。このため、eLTAXで税務を行いたい場合は、のちほど自分で利用開始の手続きをする必要があります。
ちなみに法人設立ワンストップサービスを利用して設立届を出すと、その後にeLTAXから「申請番号」と「照会番号」が届きます。
これらは、eLTAXにログインなしで利用できる申請・届出が行われたことを意味しています。
e-TaxとeLTAXではしくみが異なっており、e-Taxはすべての届出であらかじめ利用開始の手続きが必要ですが、eLTAXの一部の手続きは利用届出をしなくても可能なため、このような違いになっているものと考えられます。
繰り返しになりますが、eLTAXでは法人設立ワンストップサービスを利用しても「利用ID」は発行されないので、自分で「利用届出」を行って取得します。
余談ですが……
法人設立ワンストップサービスの開始時にもお伝えしましたが、このサービスは難易度が高く、正直微妙さを覚えます。
提出する届出を「問診」してくれるのですが、例えば棚卸資産の評価方法については、
棚卸資産の評価方法は6種類ありますが、届け出をしなかった場合は、自動的に「最終仕入原価法による原価法」という評価方法が適用されます。
届出をすることで、会社の業種や取扱い商品などに応じた適切な評価方法を選ぶことができます。
提出しますか?
という具合です。
「適切な評価方法を選ぶことができます」などと聞かれたら、なんだか「はい」を押したくなりますが、そもそもサービス業などでは棚卸資産がないことも多いです。
起業を増やしたいという政府目標があるわけですから、開業1年目に直面する業務の難しさをどうシンプルにするかという点も、もう少し議論されてよいと考えます。