倒産防止共済の「節税」制限を前に改めて考える

雑感の記事です。

2024年10月1日から、倒産防止共済(経営セーフティ共済)にかかる再加入について損金算入の制限の規定が施行されます。(租税特別措置法第66条の11第2項)

施行直前に、改めて考えたことを書いておきます。

スポンサーリンク

 

以前の記事のおさらい

2024年3月に書いた記事で、令和6年度税制改正における「倒産防止共済」の損金算入制限について、改正の経緯について疑問を呈しました。

令和6年度税制改正における改正内容のひとつに、中小企業倒産防止共済における損金算入の制限があります。...

かいつまむと、倒産防止共済について「節税」をアピールしていたのは、この共済を主宰する中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)自身、そのものであることを、国立国会図書館アーカイブからの引用で明らかにしました。

そして、「節税」を指南する執筆者やユーチューバーらをその原因と批判するのであれば、過去の中小機構の宣伝との整合性が問われるために、その方針が変わったことの経緯を説明する必要があると主張しました。

共済の加入期間を制限せず、損金算入を制限した

不思議なのは、倒産防止共済の利用において「短期間で繰り返される脱退・再加入」があるとして、

脱退・再加入は、積立額の変動により貸付可能額も変動することとなり、連鎖倒産への備えが不安定となるため、本来の制度利用に基づく行動ではない。

引用「中小企業倒産防止共済制度の不適切な利用への対応について」(中小企業庁、2024年1月)

としながらも、共済の加入資格を制限せずに、税制改正で損金算入を制限したことです。

公的な共済の制度に詳しくないので安易な発言は慎みたいところですが、なぜ税制改正で手当したのだろう、という疑問はどうしてもつきまといます。

説明資料のいう「脱退・再加入は、積立額の変動により貸付可能額も変動することとなり、連鎖倒産への備えが不安定となる」とか「本来の制度利用に基づく行動ではない」というのであれば、再加入の期間を制限することが正当な道理のように思われるからです。

この意見は筆者だけのものではなく、筆者がこれまでに見た他の税理士のブログでも、すでに同じ疑問が呈されていたものです。

なぜこのような改正になったのかはわかりません。改正について説明がされた中小企業庁の小委員会の議事録でも詳しい説明は見当たりません。財務省担当官の解説でも、この点の説明は一切ありませんでした。

好意的な見方をすれば、掛金を積むことで倒産防止に備えるという、共済のメリットは解約後短期間の再加入でも引き続き受けられることになります。連鎖倒産に備えたい事業者を広く受け入れることは共済の目的といえます。

一方、悪意のある見方をすれば、掛金が減るのは惜しいとか、事務手続きの煩雑さから、加入制限をせずに損金算入を制限したようにも見えます。

なお、中小企業庁の小委員会の議事録では、この改正によっても短期脱退・再加入の傾向が改まらない場合は、状況を見て検討を考えるとの発言が見られます。

改正がなんとなく微妙に思えてしまう理由は

共済を適切に運用することは正しい方向性と思えるのに、この税制改正が微妙に思えるのは、前述のとおり、そもそも中小機構自身が「節税」であることを長年アピールしながら、その後数年を掛けて「節税」色を控えるようにしつつ、最後は人格が突然変わったかのように手のひらを返して「節税指南はケシカラン」などと批判を始めたことです。

筆者の個人的な感覚ですが、「節税」という情報の流布については、昨今当局が強く反応するようになっているようにも思えます。

筆者が以前の記事で明らかにしたように、中小機構ホームページにおける倒産防止共済の宣伝については、「節税」というアピールが2020年頃から徐々に薄められて、2022年7月には削られたことがわかっています。

ここ数年で、「節税」という言葉に対して、神経質になっている様子がうかがえます。

なぜこのような状況になったのかはわかりませんが、「節税」情報がひろく出回ることで、その対応に追われる必要に迫られた様子もうかがえます。

また、ユーチューバーへの関心が高まったこともその背景にあるかもしれません。その結果として、「節税」を解説するコンテンツにアクセスしやすくなり、情報が広まりやすくなったこともあるでしょう。このようなコンテンツを視聴しているのは納税者だけでなく、当局も同様です。

しかし、そもそも「節税」とアピールしていたのは、主宰者である中小機構自身ですから、「節税」情報を広めた雑誌執筆者やユーチューバーらを批判する資格はないでしょう。

なお、中小企業庁の小委員会で名指しされている雑誌記事やユーチューバーらの配信動画をブログ筆者が見たところでは、共済の掛金による「節税」メリットは紹介されていましたが、中小企業庁が批判するような「短期間で繰り返される脱退・再加入」というテクニックを紹介、推奨しているものはほとんど見られませんでした。

まとめ

倒産防止共済の損金算入制限に関する税制改正について、改めて考えたことを書きました。

この点について似たような主張をしている人を他に見かけないのですが、あまり関心がないのでしょうか。「節税」を宣伝していた方もさほどの反論はされていないようなので、あまり触れられたくないのかもしれません。

中小企業庁の方針として共済を適切に運用したい意向は理解できますが、経緯を考えてみると後味の悪い改正になったように思われます。

スポンサーリンク