国税・地方税の行政手続コスト削減で、税務はこう変わる

財務省・総務省がそれぞれ2017年6月に発表した『行政手続コスト削減のため基本計画』から、ここ数年で変化のありそうな税務手続きの内容を確認します。

説明のポイント

  • 個人の税務は、マイナポータルが基点に
  • 法人は、確定申告書の提出について電子申告の義務化が視野に
  • 地方税の電子納税について、共同収納が検討される
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個人の納税者の税務はどう変わる?

一般の個人の納税者が、自分で税務に接する機会は、所得税の確定申告がもっとも多いと考えられます。

一方で、2016年に始まったマイナンバー制度についても、情報をネットで確認できる「マイナポータル」の本格運用がいよいよ始まる気配となっています。

このマイナポータルと、税務の電子申告であるe-Taxが連携することで、確定申告をより便利にする試みが検討されています。

マイナポータルとe-Taxの連携とは次のようなものです。

  • マイナポータルにログイン後、e-Taxにすぐにアクセスできる
  • マイナポータルの「お知らせ」機能で、税金に関する情報が通知される(H31年1月)

これらの機能は、マイナポータルを利用する人が利用できます。

ちなみに下の画像は、現時点でのマイナポータルと、e-Taxの連携を設定した画面です。

e-Taxとの結びつけを自分で実施する必要がありますが、マイナポータルとe-Taxとの連携はすでに始まっています。

マイナポータルのe-Tax連携

マイナポータルを利用するためには、マイナンバーカードを取得しており、さらにマイナンバーカードを読み取るためのカードリーダーを購入しておく必要があります。

マイナンバーカードを取得するためには、顔写真を用意して市区町村の役所・役場に申請します。(マイナンバーカードを取得した時点で、通知カードは回収されます)

通知カードとマイナンバーカード

この申請が面倒と感じられているためか、2017年5月現在のマイナンバーカードの取得率は9%にとどまっています。(【PDF】マイナンバーカード交付状況(平成29年5月15日時点):総務省)

つまり、10人に1人しかもっていない、という「レアカード」の状態です。身分証明としての必要性が乏しい状況では、取得が進まないのも無理はないでしょう。

こうした取得率の低さに対応するためか、国税庁は平成31年(2019年)1月実施予定として、マイナンバーカードを取得していない納税者でも、IDとパスワードによるe-Taxの利用を可能にすることを発表しています(参考)。

ただし、この方法はマイナンバーカード等が普及するまでの暫定的な措置とされています。また、IDとパスワードの取得には、事前の厳格な本人確認が必要とのことです。

法人・会計事務所向けの税務はどう変わる?

法人や会計事務所における税務も、変化が生じそうです。

これは基本的に「行政コスト削減」の話であり、納税者にとっては便利になる話のほうが多いです。あまり身構える話ではありません。

1.法人の電子申告が義務化される

大法人については、法人税・消費税・地方税の申告書の提出について、電子申告の利用率100%が視野に入っています。

つまり、紙の申告書の提出は受け付けずに、添付書類も含めて電子申告が義務化されるということです。

中小法人についても、電子申告の利用率の目標を85%(地方税は70%)として掲げています。大法人の電子申告が義務化された後に、その反応を見て、中小法人についても電子申告の義務化が予告されるかもしれません。

紙の申告書に記入している場合や、電子申告非対応の税務ソフトの利用者は、今後の税制改正等の情報を注視しましょう。

ご参考までに、電子申告の利用率については、大規模法人の方が割合的に低くなっています。申告書をExcelで作成するためでしょうか?

e-Taxの利用率

引用:税務行政の将来像~スマート化を目指して~(国税庁)

2.電子納税の推進

国税ではすでに電子納税の対応が進んでいますが、さらに便利にする取り組みが掲げられています。

  • 平成29年6月に、e-Taxの受信通知を経由して、オンラインバンキングでの支払が簡便化されている(納付情報の引き継ぎが可能になり、コードの入力が不要になった)
  • ダイレクト納付の設定口座を複数登録できる(H30年1月予定)
  • 将来的に、予納についてもダイレクト納付による納付を可能にする。予納は、任意のタイミングや、定期的な予納の設定を可能にする

その一方で、問題なのが地方税です。

当ブログでも以前に厳しく指摘したとおり、地方税の電子納税はハッキリいって残念すぎるレベルです。

eLTAXの機能改善が進まず、地方税の納税はいまだに紙の納付書が当たり前の現状を説明します。...

この状況を改善するため、これまで各自治体ごとに税金を納付していた方式を改め、地方税の「共同収納」を検討するとのことです。

また、共同収納に加えて「ダイレクト納付」の導入も検討するとのこと。これでようやく国税並みの電子納税の対応になります。

共同収納については、平成29年度与党税制改正大綱に「検討を行う」という記載があり、これを受けたものといえます。
また、共同収納の問題を分析した報告書として、一般財団法人自治総合センター【PDF】「地方分権時代にふさわしい地方税制のあり方に関する調査研究会報告書」(2017年3月)を参照。

3.e-Taxの改善・eLTAXの改善

会計事務所や法人が利用するe-Taxについても、利便性の改善が掲げられています。

  • メッセージボックスの閲覧について、部署単位で情報管理できるように改善する(H30年度)
  • 財務諸表の勘定科目設定機能の実装(H30年度)
  • 受付時間の拡大(H30年度)
  • 法人が納税者として電子署名する場合の簡便化(検討段階)

eLTAXについても、利便性の向上が検討されています。

  • メッセージボックスをインターネット、スマートフォンで確認できるように機能拡充(H31年9月)
  • ヘルプデスクの環境整備による質問対応への充実(H31年9月)
  • 利用可能文字をe-Taxと同水準に拡大(H31年9月)
  • 異動届出書情報の利用者情報への自動反映(H31年9月)
  • 受付時間の拡大(検討段階)

4.電子的提出の一元化・入力の共通事項の一元化

このほかにも、同じようなことを2度3度と繰り返している手続きについて、一元化を図ることが検討されています。

  • 税務署と地方団体にそれぞれ提出していた開業届等について一元化(H31年度)
  • 法人税や地方税の申告において、重複入力している部分の排除(H31年度)

まとめ

財務省と総務省が2017年6月にそれぞれ発表した『行政手続コスト削減のため基本計画』について、情報をざっくりとまとめました。

とくにインパクトのあるニュースは、地方税の共同収納・ダイレクト納付の導入を検討する話でしょう。一日も速い実現が期待されます。

手続きが改善されることは、好ましい話です。ただし、ルールも目まぐるしく変わることになるため、今後も情報のキャッチアップに務めていきます。

参照した情報は以下のとおりです。

また、今後10年における国税庁・税務署の改善方針については、下記の記事をご覧ください。

国税庁は2017年6月23日、『税務行政の将来像~スマート化を目指して~』という文書を公表し...

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