自分でPDFの源泉徴収票を印刷しても、確定申告に使えない? 電子交付にひそむ罠

禁止

会社からPDFなどで電子交付された源泉徴収票は、プリントアウトしても、確定申告に使うことはできません。意外と知られていない問題なので、説明します。

説明のポイント

  • 給与明細や源泉徴収票の電子交付化(PDFなどによる配布)が進んでいる
  • 確定申告では、PDFなどで電子交付された源泉徴収票を印刷しても使用できない
  • 書面の源泉徴収票の発行を、会社に依頼する必要がある
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【注意】この記事を読む前に

この記事で述べた問題は、平成31年度(令和元年度)税制改正で解決されました。詳しくは次の記事を参照してください。

2018年12月14日に与党から発表された「平成31年度税制改正大綱」より、気になるトピック...

過去に生じていた問題の資料として、この記事は残しておきます。

給与明細・源泉徴収票の電子交付

多くの企業では、毎月の給与明細や源泉徴収票を印刷して、配布しています。

しかし、これらの給与明細や源泉徴収票は、「電子交付」(電磁的方法による提供)という手段により、ネットで配布することもできます

では、電子交付のメリットとは何でしょうか?

電子交付による最大のメリットは、印刷や封入のコスト削減です。また、従業員も自分で給与明細の保管・紛失リスクが減り、省エネにつながります。

こうしたことから、従業員の数が多い大手企業を中心に、電子交付システムの導入が進んでいます。この電子交付は、平成19年から可能になった制度で、比較的最近の話です。

Web給金帳 V3の給与明細の電子交付

引用:給与明細書 電子化ソフト「Web給金帳 V3」(インターコム)より

申告書に添付できないという罠

しかし、いいことばかりではなく、気になる問題があります。

それは、電子交付された源泉徴収票をプリントアウトしても、その源泉徴収票を確定申告に添付して用いることはできないという問題です。

この点は、国税庁の示すQ&A「給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供(電子交付)に係るQ&A」問15において、触れられています。

確定申告に使う源泉徴収票はどうすればいいのか?

では、電子交付を実施する企業に勤務する従業員が、自分で確定申告する場合、源泉徴収票はどうすればいいのでしょうか?

その答えは、会社に書面の源泉徴収票の交付をお願いする必要があります。

会社にとってみれば、確定申告する従業員のために、書面の源泉徴収票をわざわざ交付するわけです。法令上、会社はその交付を断ることはできません。

会社に書面を交付させるのは、

  • 源泉徴収票の改ざんを防ぐため
  • 電子交付の源泉徴収票は、紙の源泉徴収票とは異なり、様式の決まりがないため(Q&A問9参照。つまり、必要な記載事項が書いてあれば、文字と数字の箇条書きでもよい)

という理由があります。

しかし、せっかく電子交付で業務量を削減できたのに、わざわざ会社に書面を発行させるという制限は、ペーパーレス促進の足かせといえるでしょう。

実態は、うやむやになっているのでは?

大手企業に勤務する方の確定申告では、「切り取り線のある源泉徴収票が印字されたA4用紙」をお持ちになる方も、しばしばお見かけします。

しかし、そのA4用紙の源泉徴収票が会社から交付されたものか、自分で印刷したものかはハッキリしません。

これは、電子申告(e-tax)の促進により、源泉徴収票の添付が省略されていることも拍車を掛けているでしょう。電子申告で確定申告書を送信すれば、源泉徴収票は手元に保管しておくだけでよく、税務署に提出する必要はありません。

そうはいっても、本来、納税者の手もとにある源泉徴収票は、会社が交付したものであるのが本来のルールです。

こうしてみると、「確定申告に添付できる源泉徴収票は、会社が発行した書面に限る」という制限は、事実上、うやむやになっていると考えられます。

電子交付を導入するには?

電子交付のメリット・問題点を確認した上で、次に、電子交付をどうやって実現するかについて確認します。

こちらは従業員向けではなく、企業の担当者向けの話です。

電子交付を実現するためには、まず事前に従業員からの同意が必要とされています。

具体的な法令上の決まりはありませんが、国税庁のQ&Aでは、次の内容を電磁的方法で示すことが推奨されています。

  1. 電子交付する書類の名称(給与所得の源泉徴収票、給与支払明細書の別等)
  2. 電磁的方法の種類やその具体的な方法
  3. 受信者ファイルへの記録方法(XML形式、PDF形式、暗号化して受信者ファイルに記録する旨及びその復号化方法等)
  4. 交付予定日(毎年○月○日までに交付、給与支給日に交付等)
  5. 交付開始日
  6. その他参考となる事項

この確認の後、従業員から「電子交付について承諾する旨、承諾日、受給者氏名」などを入力してもらって、承諾を得る手順が示されています。

小規模企業向けのシステムもある

給与明細の電子交付というと、大企業のイメージがありますが、実は小規模企業でも実現は可能です。

クラウドの給与ソフトを利用することで、給与明細の電子交付はかんたんに実現できます。参考例として、freeeとMFクラウド給与の説明をリンクしておきます。

参考:給与明細を発行する(freeeヘルプセンター)

参考:機能紹介(MFクラウド給与)

クラウド型の給与ソフトは、その目新しさにとどまらず、事務負担の削減というメリットにも注目したいところです。

まとめ

電子交付のメリット・問題点にふれつつ、導入方法についても紹介しました。

給与明細や源泉徴収票の電子交付を利用すれば、業務負担を削減することができます。

しかし、電子交付された源泉徴収票には制限があり、確定申告書に添付できません。このため、書面の源泉徴収票の交付を、会社に依頼する必要があります。

この制限は、うやむやな状態になっているとも考えられ、制度の緩和が望まれます。

補足1

電子交付を徹底するなら、オンライン送信が可能なデータ形式(電子署名つき)の源泉徴収票データ(XML形式)を配布する、という方法があります。しかし、これはe-taxを利用する従業員にのみ有効で、紙の確定申告書で提出する従業員には対応できない問題があるため、ほとんど利用されていないようです。電子署名のある源泉徴収票の作り方は、下記のリンクをご覧ください。

電子署名した源泉徴収票データ(XML形式)の作成方法を説明します。事業者向けの情報です。 ...

補足2(2019年1月)

この記事で述べた問題ですが、平成31年度税制改正により解決する見込みとなりました。詳しくは次の記事を参照してください。

2018年12月14日に与党から発表された「平成31年度税制改正大綱」より、気になるトピック...

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