とくにクラウド会計を利用している方は、要注意です。決算後、帳簿を印刷せずにデータのまま放置しているケースがあるからです。
説明のポイント
- 決算後、会計ソフトの帳簿データを印刷することは、税法の原則ルール
- 最悪の場合は、青色申告の特典が取り消されることも
帳簿の印刷、してますか?
決算が終わった後、会計ソフトに保存されている帳簿データはどうしていますか?
ちなみにバックアップの話ではなく、「税法上における帳簿の保存」の話をしています。
結論からいえば、帳簿は原則として紙に印刷して保存します。データのままほったらかしにしてはいけません。
印刷していないとダメな理由
帳簿は、PDFデータで保存すれば便利そうです。印刷代も保管場所も必要ないので、「エコ」と思われるかもしれません。
しかし、この保存方法は原則としては認められません。なぜダメなのかというと、税法上の要件を満たしていないからです。
昨年(2016年)12月28日に、国税庁のサイトに興味深いQ&Aが掲載されました。少々長いですが、引用します。
問2 市販の会計ソフトを使って経理処理や申告書の作成などを行っている場合には、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等は認められますか。
【回答】
国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存等を行う場合は、法令で定められた要件を満たし、税務署長等の承認を受ける必要があります。
したがって、税務署長等の承認を受けることなく、市販の会計ソフトを使用して、紙による保存等に代えて、電磁的記録等による保存等を行うことは認められません。(後略)
出典:電子帳簿保存法旧Q&A(平成28年9月30日以後の承認申請対応分)(国税庁)/新Q&A電3
この引用のとおり、税務署長の承認がないままに、電磁的記録等による保存(つまり、パソコンのデータのまま保存すること)は認められません。
会計ソフトはあくまで「ツール」であり、入力された帳簿のデータは、帳簿を紙に印刷するまでの「過程」にすぎない、という位置づけです。
同様のことは、既に国税庁のタックスアンサーでも書かれていましたが、電子帳簿保存法の要件に絡めて、Q&Aで改めて示されたかたちです。
参考:記帳や帳簿等保存・青色申告(国税庁) →個人事業主向け
参考:No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法(国税庁) →法人向け
クラウド会計による「印刷忘れ」の問題点
近年、利用者が増加しているクラウド会計ソフト。例えば、「MFクラウド会計」や「freee」を利用して決算を行う事業者も、徐々に増えつつあります。
クラウド会計ソフトを利用すれば、そのデータはクラウド上に保存されます(当たり前ですが)。自分の手もとのパソコンや、サーバーにデータは保存されません。
税法上の要件を満さない場合、青色申告が取り消される恐れ
青色申告の特典は、税法のルールにそった手続きをしている納税者に認められるものです。適正な手続きをしていない納税者には、青色申告の特典が取り消される恐れもあります。
例えば、65万円控除も認められず、青色専従者も認められないことになり、大きな代償を払うことにつながります。
個人事業主は、法人に比べて税務調査の件数は圧倒的に少ないのですが、印刷を忘れていたとしても、その責任は納税者にあります。リスクがあることを承知しておきましょう。
データが手もとにないから、管理が緩くなる?
クラウドでデータが保存される安心感は、別の問題をもたらしていると考えられます。それは、決算が終わった後もデータのまま放置して、帳簿を印刷していないということです。
クラウド会計ソフトの場合、自分の手もとにデータがありません。このため、インストール型の会計ソフトに比べ、データ管理の義務感がゆるくなるのかもしれません。
しかし、前述のとおり、データのままでは、原則的な帳簿保存の要件を満たしていません。
データ消失の危険性も考えておく
クラウド会計ソフト会社は、高い安全性をアピールしています。また、サーバーを分散して二重三重のバックアップ体制であるという話も耳にします。
しかし、物事に100%はありえません。万が一、クラウド会計業者のサーバーで事故が起こった場合、帳簿のデータが失われてしまう可能性も、決してゼロではありません。
決算が終わった後は、次の対応を忘れず行いましょう。
- データのバックアップを取る。(特に「仕訳帳」のcsvデータ)
- 必要な帳簿を印刷する。(特に「総勘定元帳」)
参考:データのバックアップを行う(freeeヘルプセンター)
参考:Q.仕訳のバックアップ機能はありますか?(MFクラウド会計)
まとめ
クラウド会計ソフトを利用している方を中心に、帳簿印刷の必要性について注意喚起しました。
税法上の要件を満たさない場合は、最悪の場合は、青色申告の特典が取り消される場合もあります。例えば、65万円控除が認められず、納税額がアップする恐れもあるということです。
これはクラウド会計ソフトに限らず、インストール型の会計ソフトを使っていても同様の話です。
データのままでは、要件を満たしていないことになります。きちんと帳簿を印刷をしておくことが望ましいでしょう。