過去4回に引き続き、「年末調整手続の電子化」について、対応を事前に検討するためのアドバイス集を提供します。
説明のポイント
- 書面を印刷してもらうか、データを提出してもらうか。提出物を明確に指定しておく
- 書面提出の場合でも、翌年用のデータが同時に出力されるため、混乱を招きやすい
【5】提出物を明確に指定する
年末調整ソフトを利用してもらう場合には、従業員に対して提出物を明確にしておいたほうがよいでしょう。
このようなアドバイスをする理由は、
- 年末調整ソフトは初めての利用なので、不慣れであること
- 給与担当者が流れを理解していても、従業員はよくわかっていない場合もあること
が想定されるためです。
提出物は「書面」か「データ」か?
年末調整ソフトで書類を作成した最後の段階では、出力するファイルを「書面」と「データ」のいずれかから選択します。
この操作は、「出力形式の選択」画面で行います。標準では「電子データで出力する」が選択されています。
ほとんどの会社では「書面」で提出するでしょうから、「書面印刷」に切り替えて、出力してもらう必要があります。
もし従業員に何も周知しないままですと、どちらを選択したらいいのか、戸惑うことは確実です。
すでに年末調整ソフトの知識をある程度備えている給与担当者に比べ、従業員は「データ」と「書面」の意味もよく理解していないからです。
従来の年末調整の知識でいえば、ここまでの作業はなんとかなるでしょうが、この「書面」「データ」の選択だけは、従来の年末調整にはない新しい操作といえます。提出物の指定をしておくことが望ましいといえるでしょう。
書面を印刷してもデータは出力される
とはいえ、「書面を印刷してほしいと伝えたし、あとはもう、なんとなく印刷して持ってくるのでは?」という感じもしますが、書面印刷の場合はさらに注意点があります。
書面印刷を選択した場合、「入力した内容を電子データで出力する」というチェックボックスがあります。
先ほど「電子データで出力する」という選択肢を選ばずに、「書面提出」をわざわざ選んだのに、それでもなぜデータ出力ができるのでしょうか。
その理由について、国税庁FAQ問5-28を読んでみましょう。
② 年末調整申告書を書面で勤務先に提出する場合
PDF 形式で出力するため、この PDF 形式を印刷の上、勤務先に提出してください。なお、PDF 形式のほかに、①と同様の XML 形式も併せて出力します。この XML 形式は、翌年以降の年末調整手続の際に利用する年調ソフトへのインポート用データであり、インポートすることで、翌年以降の入力作業が簡便化されます。
つまり、書面提出の場合、会社へデータ提出は不要です。しかし、来年の作業用のためにデータが出力されるということです。
書面提出の場合であっても、データの取扱いを伝えておかないと、従業員は戸惑いを感じるはずです。
書面提出を選んだのに、データ出力のチェックボックスがあるのは、やはり奇妙な印象を受けます。
給与担当者としては「データは提出不要ですが、来年の年末調整でインポートできるので、できれば保存しておいてください」と案内しておくほうが望ましいでしょう。
従業員におけるデータ保存の重要性は高くありませんので、来年の年末調整までデータを残しておくのは「できれば」程度でかまわないと考えます。(もし紛失しても、今年と同じように再度記入すればいい)
こうした案内をしておけば、「データはどうすればいいのでしょう?」という問い合わせを受けることを防げるでしょう。
「pass.zip」と「nopass.zip」のどちらを提出する?
今年(2020年)の年末調整ではまだまだ少ないでしょうが、データ提出を想定している会社もあるかもしれません。
「電子データで出力する」→「パスワードをかける」を選択した場合でも、zipデータは「パスワードあり」と「パスワードなし」の両方が出力されます。
「パスワードをかける」という選択をしたのですから、本来は「パスワードあり」のpass.zipだけが出力されてもよさそうですが、なぜか「パスワードなし」のnopass.zipも出力されます。
従業員としても、zipファイルがなぜか2つ出力されるので、どうしていいのか戸惑うはずです。
データ提出において、USBメモリやメール添付などの方法を選択している場合、「パスワードあり」のpass.zipを送信することが税法上の要件となっています。
一方、社内LANなど本人確認措置が別途用意できる場合は、「パスワードなし」のnopass.zipを提出すればかまいません。
重要なのは、出力される2つのzipファイルのうち、どちらを提出してほしいのか? を明確にしておくことです。
まとめ
年末調整ソフトを利用し、年末調整書類を最後に出力する段階で生じそうな混乱を防ぐためのアドバイスをお伝えしました。
会社は書面提出を想定しているのに、従業員はデータ提出も必要と勘違いして、zipファイルを送信してくるかもしれません。
従業員には、事前に提出物を明確にしておくことが必要でしょう。
ここまで全5回で、年末調整ソフトの事前アドバイス集をお伝えしました。
筆者が年末調整ソフトのプロトタイプ版を操作し、「事前に周知しておくと、混乱を防ぐことができそう」と感じた部分を整理したしだいです。
過去記事も並べておきますので、事前の周知にお役立てください。